お酒を美味しく、そして楽しく飲んでもらうために選んだ鉄道というコンセプト、および缶詰立ち飲みスタイル。そこに、多趣味だからこそ鉄道マニアの熱量を理解できる二上さんならではの寛容さも加わって、現在のスタイルに落ち着いたようだ。さらに女性従業員も加わり、立派なスナックとなっている。
「ただ、お店のコンセプトとして鉄道を前面に掲げていることもあり、『キハ』はガチな鉄オタにも愛されるお店となりました。女性一人の常連客も多いですね。もちろん、初めての人でも安心してご来店いただけます」
「この“ぬるさ”がちょうどいいんです」
ところで、店名の「キハ」とはどういう意味なのだろうか。二上さんに聞くと、隣にいた男性客が慣れた手つきで資料を取り出した。
「キハはね、列車の種類を表す記号だよ。「キ」はディーゼルカー、「ハ」は普通車を表していて、合わせると“ディーゼルカーの普通車”という意味になるんです」。そう語るのは、この店の常連であり、いわゆる“撮り鉄”の水上さん。スマートフォンに保存された自慢の写真は、時刻表の表紙を飾るにふさわしい出来栄え。
「良い写真が撮れるならどこへでも行きますよ。この前は、車で12時間かけて東北まで行ってきました。ただ、ベストショットを撮影できる7時間前に行ったにもかかわらず、先に場所を取られていてね……」
そう悔しそうに語る水上さん。まさに筋金入りの撮り鉄だ。話題はお店のことに及んでいった。「やっぱりね、撮り鉄にもルールがあって。たとえば、カメラを構えている人の前には立たないとか、自分のことしか考えて行動しないとかね。でも、このお店ではそんな堅苦しいルールを言う人はほとんどいませんよ。むしろ鉄道マニアの人であればあるほど、この店で鉄道の話はしない。その“ぬるさ”がいいんですよ」。
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