「A4紙1枚ルール」が、逆に生産性を低くする 「緩和ルール」で部下の行動力を引きだすコツ
ある日、部内の打ち合わせで配付されたA4紙1枚の資料の文字が、老眼進行中の身にはきついほど小さかったのです。そこで、資料を作成した部下に聞くと、どうしても内容を削れなかったため、A3サイズで作成してA4サイズに縮小コピーしたとのこと。「A4紙1枚ルールですから」と。
「お前、そういうことじゃないだろ」と言っても、「前の部署ではこれでよかったんですけど」と不満そうな顔をしている。時田さんは、「ウチの会社、大丈夫か」と不安になったそうです。
「A4紙1枚ルール」の趣旨を理解している人は、目的と結論を最初に書き、結論に至る根拠を箇条書きで続けるなどして、うまくA4紙1枚に収めようとします。それを繰り返しているうちに、枝葉末節にとらわれずに本質を的確に伝える力も鍛えられていきます。
しかし、ルールの趣旨を理解していない人は、形式的なつじつま合わせに走ってしまいます。時田さんの部下のように、縮小コピーしたり、文字サイズを8ポイント(極小)に下げたり、印刷余白をほぼゼロにするなど。
これでは本質を伝える力は磨かれず、伝えたいことも伝わりません。何より、そのような作業に費やす時間がムダです。
「束縛ルール」が社員の思考を停止させる
良かれと思って作ったルールが、完全に逆効果になっている例もあります。別の会社に勤める東さん(仮名・40代)によると、「社内会議の資料はすべて手書きにすること」というルールができたそうです。内容がわかりさえすればよく、時間をかけて体裁を整える必要などないという、業務の効率化を推し進める経営者の考えです。
しかし、東さん、「メモ程度の資料ならともかく、最終的な資料にするまでの修正や編集のことを考えれば、最初からワードやパワポなどのPCソフトを使って作成したほうが圧倒的に速いのに。キーボード入力で育った若手社員は、慣れていない手書きに四苦八苦しており、中には、PCで下書きをしてから手書きをする人もいるのですよ」。
スマホも満足に使えない年輩経営者の、「手書きのほうが速いに決まっている」という思い込みのせいで社員が右往左往しているという、こちらも笑うに笑えない話です。
なぜ、時田さんや東さんの会社のようなことが起きるのでしょうか? それは、どちらのケースも、「正解はこれ以外にはない」という思い込みに基づいた「束縛ルール」で社員の行動を制限しようとしているからです。
「絶対にA4紙1枚が正解」「絶対に手書きが正解」であるとして、それ以外の選択肢を社員から奪っているのです。社員はその時点で思考が止まってしまうため、いつのまにかルールの趣旨に関係なく、ルールを守ることが目的化してしまいます。
「束縛ルール」で仕事をさせようとする発想は、メンバーに不要のストレスを与えるだけでなく、ときとして考える力をも奪ってしまいます。
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