情報化社会で真の知識人は「コミュ障」の人間 角川歴彦×川上量生対談(1)
川上:僕は、ネットには隠れた論客がまだまだいるなということをすごく感じています。従来のマスメディアに出ている知識人は、フィルタリングした知識を拡散する拡声器のような役割を果たしてきた。自分で何かを考えるというよりは、どちらかというと、マスコミというフィルターが集合知になっていて、そこで決まった公式発表のスピーカーみたいな人たちが多かった。
そうした人たちは、コミュニケーションをいっぱいしているので、たぶん時間が足りないのだと思うけれど、何かを深く突き詰めて考えている人は少ないなと僕は思います。
むしろ、そういうところでおおっぴらに発表していない人のほうが、すごく考えている。でも、そんな人はネットの中でもあんまり発言しないんですよ。コミュ障だから。人に伝えるよりも、自分で掘り下げたほうが楽しいというか。
だから、僕が本を出すなんて非常におこがましいと思うのですが、ある特定のジャンルに特化してみれば、自分にも発言する資格はあると思っているんですよね。だから、今回のようなちょっと違った角度であれば、やってみようと思って引き受けたわけです。
対プラットフォームのビジネスで重要なこと
――株式会社KADOKAWAは10月1日に連結子会社9社を吸収合併して、新しい体制に移行しました。KADOKAWAの取締役でもある川上さんは、最初にそれをお聞きになったとき、どういうふうに感じましたか。
川上:単純に考えて、現場は猛反対するだろうなというか、実際に猛反対だったのですけど、少なくとも、プラットフォームに対抗して巨大なものをつくるというのは、僕は正しいと思いましたね。
出版業界というのはただの連合体であって、たとえば大手の講談社、小学館ですら、強烈なガバナンスが効いているわけじゃない。でも、歴史的に見たら、そういう諸侯乱立の緩やかな封建制が、絶対王政に変わっていくわけですよね。歴史的には正当な進化だったと思います。
角川:役員会で初めてその話を聞いたとき、どう思いました?
川上:正直言うと、短期的には数字はきっとマイナスになるなと思ったんですよ。「1+1=2」にならずに、たぶん少し減る。ただ、長期的に、たとえば海外進出や今後の業界のことを考えると、正しい方向なのではないかなと思いましたね。
出版業界を見ていると、統制が効いていないじゃないですか。それが強さでもあるのだけど、もろさにもなっている。コンテンツは上からの強制ではなく、下のほうで動いたほうが絶対にいいものができる。作者の思いどおりにするとかね。
ただ、対プラットフォームのビジネスになると、「スケールメリット」と「どれだけ統制が効いているか」が重要になる。いくら人数が多くても、統制が効いていない軍隊なんて烏合(うごう)の衆でしかないので。