情報化社会で真の知識人は「コミュ障」の人間 角川歴彦×川上量生対談(1)
既存の権威とは別のところに価値がある
角川:知識人のあり方が変わってきているということですね。それと呼応するかのように、従来の「知識社会」では説明できない事件がいっぱい起こっているわけです。
たとえば、ちょっと古い話になるかもしれないけど、2010年に尖閣諸島で起きた、中国漁船衝突ビデオ流出事件。中国漁船が海上保安庁の巡視船にぶつかってきたシーンを、海上保安庁の職員がYouTubeにアップした事件があったでしょ。あのとき、海上保安庁のこの職員は、自分でビデオを公表すべきだと思ってアップした。でも、国もジャーナリストも、みんなこれをどう処理していいかわからず、茫然としてしまったんです。
知識人も何も発言できなかった。いろいろなことを慮るから。でも、海上保安庁は撮った。撮ったのだから、そのまま見せればいいんだよね。あとは国民の判断に任せればいいのです。
ところが、某ニュースの解説者は違うことを言った。「撮ったまま出たら困るのです。まず私たちが見て、みんなで討議して、それから国民に見せるのです。だから国民は安心してわれわれのテレビを見るのです」と。それは、僕はおかしいと思うんだよね。
川上:情報操作をすると公言したわけですよね(笑)。
角川:そうそう。フィルターを通さなければ国民に知らせてはいけないと言うんです。自分たちのフィルターを通せば正しいけれど、国家がフィルターを通したり、警察がフィルターを通したりすると、途端に目くじらを立てるのです。これがあの人たちのおかしなところで。
知識社会には長所もあるから、すべてを否定するつもりはないのです。でも、ソーシャル時代には、新しい発言者が生まれてきている。その新しい発言者を、僕はこのEPUB選書で取り上げたかった。既存の新書や選書というのは、すでにある権威によって裏付けられた作家が執筆者に名を連ねています。つまり、それ以前にどんな本を書いてきたかが重要なわけです。
でも、EPUB選書はそういうことは問いません。今、必要な内容であれば、誰にでも門戸が開かれている。
今回、EPUB選書の第1回に川上くんが出てくれた。しかも、川上くんの初めての単著だというところに、この選書の意義があると思います。僕も2冊目の本を書いたけれども、そうしたところを基準にして、「ああ、川上くんが出るんだったら僕も出てもいいんじゃないか」という人がたくさん集まってほしいし、そんな受け皿にしたいと考えています。