オリンピックが浮き彫りにする「表彰」の魔力 社員のモチベーションアップにこう応用せよ

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しかも承認はほかの欲求とも結び付いている。たとえば承認されると他人への影響力や発言力が大きくなるし、達成感や自己効力感(環境を支配しているという感覚)も味わえる。収入増やキャリアアップにもつながる。

だからこそ、人間は他人から認められたいのである。とりわけ職業生活においては、承認の欲求や欲望は自己実現欲求などよりも強く表れることが多い(拙著『承認欲求』参照)。

コスパに優れ、職場の空気を変える表彰制度

その承認のシンボルが「賞」であり、卓越した能力や業績などを称えるのが表彰である。賞は公式な承認であるだけに重みがあるし、周囲への影響力も格別に大きい。それを広く発信するのが表彰である。だからこそ人々は「賞」にあこがれ、表彰されたがるのだ。

だとしたら、賞や表彰の動機づける力をよい方向に利用しない手はない。身近な世界でも賞や表彰を取り入れることによって、人々のモチベーションを高められる。

実際に業種、職種を問わず社内に表彰制度を設けている企業はたくさんあり、社員の特性や仕事の性質に応じて工夫を凝らしながらそれを運用している。

かつては表彰といえば社長賞や会長賞のような権威あるものが中心だったが、近年はそれらに加えて、コツコツと努力する「縁の下の力持ち」を称えたり、顧客を巻き込んでゲーム感覚を取り入れたりするものが増えている。

なかには前向きに挑戦して失敗した社員を表彰するといったユニークな制度を取り入れているところもある。制度を設けた企業では、社員のモチベーションが目に見えて向上し、業績がV字回復したとか、職場の空気が見違えるほどよくなり顧客サービスも改善されたというような効果が報告されている(太田肇・日本表彰研究所『表彰制度』)。

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表彰制度にはそのほかにも優れた特徴がある。

表彰された人は、いわば「望ましい社員像」のモデルである。したがって強制によることなく、社員を望ましい方向に誘導ことができる。企業理念や社是・社訓を100回唱えるより効果があるのは間違いないのではないか。

もう1つは、それほど費用がかからずに大きな効果が期待できること、すなわちコスト・パフォーマンスがよいことがあげられる。この点でも中途半端な成果主義よりはるかに優れているといえよう。

「認められたい」という欲求・欲望は、抑圧すると”やる気”を失わせ、離職にもつながるだけでなく、さまざまな問題行動を引き起こす。加熱しすぎたり、不公平感が生じたりしないように配慮しながら、独自の表彰制度を設計することを勧めたい。

太田 肇 同志社大学教授

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おおた はじめ / Hajime Ohta

1954年兵庫県生まれ。神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学経済学博士。公務員を経験の後、滋賀大学経済学部教授などを経て2004年より同志社大学教授。専門は組織論、人事管理論、モチベーション論。著書に『承認欲求』『お金より名誉のモチベ-ション論』(東洋経済新報社)、『日本人ビジネスマン「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)、『承認とモチベーション』(同文舘出版)、『公務員革命』(ちくま新書)、『組織を強くする人材活用戦略 』(日経文庫)、『がんばると迷惑な人』『個人を幸福にしない日本の組織』『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)など多数。

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