外資製薬会社「超簡単テレワーク」の仕掛け 理由や場所は不問、5分単位で申請できる

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まずは人事部内で3カ月間試行し、さらに展開規模を拡大して試行するなど、2段階のパイロット期間を設けた。パイロット期間中は毎月アンケート調査を実施し、その効果をグラフ化するなどして評価も行った。こうした手順を踏むことで「オフィス以外で仕事なんて本当にできるのか」と思っていた人も「やってみたらできるかも」というふうに、認識が変わって行ったようだ。

「また、弊社のトップである、トーステン・ポールが強い興味を持ち、ぜひと後押ししてくれたことも、社員の理解を得て導入を加速するのに役立ちました」(高野氏)

そのほか、上司が真っ先に利用し、周囲にはっきりアナウンスしたことで、部下にも浸透しやすくなった。もともと同社は外国人も多く、フレックス制度を利用して業務外の時間をうまく使っていたそうだ。

このように、同社の場合はテレワーク導入の成功要因がもともと企業風土のなかにあったようだ。外資系で、ワークライフバランスへの意識が高く、制度も整っていた。また取引先のなかにはすでにテレワークを実施していたところもあったという。部署にもよるが、取引先を気にしてテレワーク制度が利用できない、という心配はそれほどなかったようだ。

何より、「面倒な手続きや申請がいらない」というシンプルさが、利用のしやすさにつながった。そしてここまでシンプルな制度とすることができたのも、テレワークの仕組みづくりをボトムアップで行い、パイロット展開をして調査・評価しながら、理解を求めていったことが大きい。「利用して本当に大丈夫なのか」という社員や上司の不安をぬぐわなければ、新しい仕組みを浸透させることはできないからだ。

現状は16%程度が実施、あるいは導入予定

総務省が行っている調査では、現状、企業のうち16%程度が実施、あるいは導入予定となっている(2016年9月末時点・通信利用動向調査)。政府は2020年までに、2012年時点の11.5%比3倍程度に引き上げる目標を立てている。

アメリカでは9割近くが導入しているのに対し、現状の10数%、というのは少ない。しかし現在30数%というイギリスでも、2012年のロンドンオリンピックを契機に、ロンドン市内の企業の8割が導入し、数字を引き上げたという実績がある。日本でも2020年の東京オリンピックを目指し、政府や東京都、経済団体や企業などが連携したプロジェクト「テレワーク・デイ」を推進、導入実績を伸ばして行く方針だ。

同ベーリンガーインゲルハイム社のように、条件に恵まれるところは少ないかもしれない。制度が形骸だけにならぬよう、自社風土に合ったやり方を各企業が模索していく必要がありそうだ。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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