世田谷一家殺人事件、被害者の姉の「その後」 隣に住んでいた姉一家の人生も激変した

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「礼くんには発達障害がありました。妹は、翌年の春、1年生になる礼くんを、にいなちゃんと同じ、地域の小学校に入学させたかったんです」

礼くんの障害と向き合い、懸命に子育てする泰子さんを、間近で見てきた入江さんは、反対などできなかった。暗闇の中で、もがくような日々が続いた。一筋の光が見えたのは、1枚の絵と再会したことに始まる。

妹一家の幸せな姿を残しておきたい

「絵の中の女の子に気づいたとき、“あ! にいなちゃんがいる”と叫んでいました」

小学校の先生から、遺品として受け取った、にいなちゃんの絵は、目にするのもつらくて、しまい込んでいた。再び取り出したのは、事件から半年あまりが過ぎた、にいなちゃんの誕生日のことだ。

「『スーホの白い馬』という物語の一場面を描いた絵ですが、ほら、ここに!」

姪御さんのにいなちゃんが描いた『スーホの白い馬』の一場面。にいなちゃんの遺品となったこの絵が、入江さんが立ち直るきっかけとなった

入江さんは絵を見せながら、声を弾ませる。白い仔馬を抱いた、スーホの隣に、頭にバンダナを巻いた女の子が、しっかりと描かれていた。その姿は、事件前日のにいなちゃんそのものだった。

「あの日もバンダナを巻いて、大掃除のお手伝いをしていました。夫が“頑張ってるね”と声をかけると、はしゃぐように笑顔を見せて」

そのときの笑顔が、絵の中のにいなちゃんと重なった。泰子さん、礼くん、みきおさんの姿も、まぶたに浮かんだ。みんなが笑っていた。

「このとき、ふっと心が動きました。このままじゃいけないって。もちろん、ドラマみたいに、すぐに立ち直るなんてできなかった。でも、私がどん底にいたら、家族が悲しむ。そのことを、現実として、感じられるようになりました」

事件から1年後、港区の新居に引っ越してからは、上智大学などで死生学を学びながら、社会活動にも視野を広げ、地域の小学校の図書館でも働き始めた。少しずつ、日常を取り戻しながら、絵本づくりにもとりかかった。

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