世田谷一家殺人事件、被害者の姉の「その後」 隣に住んでいた姉一家の人生も激変した
事件以来、ずっと支えてくれた夫の死は、妹一家のときと違い、犯人への怒りがないぶん、悲しみも深かった。だが、7年が過ぎた今、語られるのは、夫との楽しい思い出だ。
「夫がイギリスから帰国すると、近所の公園で犬を連れて散歩するのが日課でした。いつも話すのは私。夫はもっぱら聞き役でしたね。そうそう、私たちの出会いも、公園だったんです。犬を散歩中に、動物が大好きな夫が話しかけてくれて」
「ただごと」の日々を大切に
入江さんは、「ただごと」の日々を大切にしている。
穏やかで、ありふれた毎日が、どれだけかけがえのないものかを知っているからだ。
「あの事件で、私たちは嵐の中に放り込まれました。非日常では、悲しみすら現実感が薄かった。でも、今、夫が逝って、心から悲しい。それは日常を取り戻せたから、感じられることなんです。妹一家は、ただごとの毎日を大切に、生活していました。私も、その意思を引き継げたらと思っています」
世田谷事件が起きた年末は、全国各地を講演で飛び回る。多忙な日常を送りながらも、地に足をつけて暮らす。
「朝はみそ汁を必ず作ります。都心に暮らしているのでスーパーが近くにないけれど、八百屋さんがあるので、新鮮な野菜を入れて。社会人になって忙しく働く息子に、“今日は夕飯いる? じゃあ、作っとくね!”なんて、声をかけて送り出しています」
17年たった今も、事件現場は、取り壊されることなく、当時のまま残されている。
犯人逮捕をあきらめていない、警察の象徴のように。
「建物は老朽化しても、事件は風化させたくない。思いは警察と同じです。犯人への怒りも、当時のままです」
入江さんは、そう言い切る。毎年、年末には、世田谷事件追悼の集い『ミシュカの森』を開催し、たくさんの参加者とともに故人を偲ぶ。
私たちも忘れずにいたい。
幸福に暮らしていた、4人の大切な命が奪われたことを。事件から17年、悲しみを生きる力に変え、懸命に生き直した家族がいることを。
(取材・文/中山み登り 撮影/森田晃博)
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