世田谷一家殺人事件、被害者の姉の「その後」 隣に住んでいた姉一家の人生も激変した

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読者から届く手紙の中には、『池田小学校事件』(2001年・大阪教育大学附属池田小学校で起きた、無差別殺傷事件)で姉を亡くした女の子からのものもあった。

「“心の支えになった”と感想をもらって、私のほうが励まされました。そのころから、人とのつながりが広がって、被害者遺族として、自分に役割があることにも気づけたように思います」

泣いていい、思い切り笑っていい

講演を行う際は、著作絵本『ずっとつながってるよ』の読み聞かせも行う。感情を抑えた語りは、人々を物語の中にすっと引き込み、涙する人もいるほどだ

絵本の出版を機に、人前で話す機会も増えた。

「最初は、事件の話と、絵本の読み聞かせが中心でした」

この集いは、いつしか『ミシュカの森』と名づけられ、以来11年、行政などと協力し、誰もが悲しみを発信できる場として形を変えている。

「母もそうでしたが、弱い立場の人ほど、“悲しい”と声を上げられず、引きこもってしまいがちです。そういう人が、安心して話せる場所を、できるだけ自分でも設けていますし、そうした場づくりの応援もしています。話すこと、聞いてもらうことが、回復の糸口になるからです」

身近な人の死別、離別で悲しみを抱える人を支援する、グリーフケアについても学びを深めた。現在は、上智大学グリーフ研究所で非常勤講師、世田谷区グリーフサポート検討委員を務めるなど、それぞれの立場から、人々の悲しみに寄り添う。

前出・倉石聡子さんが話す。

「入江さんは率直な方なので、自分の弱さや失敗談も、あっけらかんと話します。その姿に、多くの人が“こんな自分でもいいんだ”と励まされ、声を上げることができるのだと思います」

息子さんを自死で失った、皮膚科医の樋口恵理さん(58)も、そのひとりだ。

「講義に参加して驚いたのは、入江さん自身の輝きでした。ああ、人は生き直せるんだと、その姿が教えてくれました。行動力も驚くほどで、私が今、月に1度、医療少年院で治療に携わっているのも、入江さんに誘われて少年院を見学したのが始まりです。虐待経験や障害のある少年たちと向き合う中で、息子の死にとらわれていた気持ちが変化し、自分ができることに気づけたように思います」

山口被害者支援センター直接支援員で、2006年に起きた『山口高専生殺害事件』で娘さんを失った犯罪被害者遺族でもある、中谷加代子さん(57)が話す。

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