世田谷一家殺人事件、被害者の姉の「その後」 隣に住んでいた姉一家の人生も激変した
「マスコミが伝える、“かわいそうな家族”ではない、幸せな妹一家の姿を、残しておきたかったんです」
主人公は『ミシュカ』。
にいなちゃん、礼くんが大事にしていた、クマのぬいぐるみだ。物語を紡ぐうち、心が温かくなるのを感じた。
「4人の死を、受け止められたというか」
臨床心理士で、後述する『ミシュカの森』の主要メンバー・倉石聡子さんが話す。
「入江さんは、にいなちゃんの絵から、メッセージを受け取り、絵本を書くことで喪失感から回復していったのではないでしょうか。回復のきっかけを探していたタイミングで、にいなちゃんの絵と出会えたことにも、運命的なものを感じます」
反響を呼び、多くの人の心をとらえた
文章と絵、両方に思いを込めて手がけた作品は、2006年、4人の七回忌に、『ずっとつながってるよこぐまのミシュカのおはなし』(くもん出版)として出版された。これを機に、『世田谷事件』の被害者遺族であることも公表した。
「とても勇気がいりましたが、大学に入学した息子が、友達にカミングアウトしたことや、世間体を気にしていた母が体調を崩し、世間の目どころではなくなったことも、公表に踏み切れた理由です」
ペンネームは、『入江杏』。名づけ親は、息子だ。
「にいな『NINA』と、礼『REI』、2人のアルファベットを入れ替えて、『IRIE・ANN』はどう? って。とても気に入っています。絵本のタイトルも、息子がつけてくれました」
絵本は反響を呼び、多くの人の心をとらえた。出版に携わった、元くもん出版の田中康彦さん(65)が話す。
「最初に絵本を読んだとき、妹さん一家の楽しい日常と、突然の別れを、ミシュカを通してやさしく表現されていることにホッとしたのを覚えています。私自身、すでに妻を見送っていたので、“これからもずっとつながっている。忘れないよ”というメッセージに、とても共感しました」