横浜ゴムが学んだ、ローカル人材活用法 ストライキという危機を乗り越え、V字回復
しかし、タイヤ業界の同業者であり、ライバルでもあるカスミナを合弁パートナーにしての事業展開には難しさを伴った。横浜ゴムは2006年に新しく100%出資でYTVIを設立、2008年から2輪車用、軽トラック用、産業車両用のバイアスタイヤ、ミニスペアタイヤなどを生産開始(タイヤ生産能力は年間130万本)、2拠点体制とするが、2012年6月にYTVCを工場閉鎖・清算し、翌月(7月)YTVIに統合することになった。
「両社の間には約10年の開きがあります。当然のことながら、YTVCの従業員(スタッフ部門、ワーカー)は経験と技術があり、YTVIが採用した従業員は若いけれど経験が浅い。統合によってかなりの給与差が出ましたが、統合の過程では致し方ない面もありました」
こう言うのは、YTVI社長の小林一司氏。実は、小林氏がYTVIに赴任してきたのは2社統合の直前(2012年4月)で、7月にはYTVI社長に就く予定となっていた。赴任してきた直後にいきなりストライキに見舞われたわけである。
実は組合が機能していなかった
ストライキは5日間で収束したものの、従業員間に充満する不平・不満を実際に現場で聞いた小林氏は、社長就任後に思い切った一言を発する。
「そんなに文句があるなら、私が話を全部聞いてやる」
小林氏は社長に就任するやいなや、12月まで半年かけて従業員500人余の全員面談を実施したのである。1日10人面談という日もあったが、これでは小林氏の仕事に支障が出るため、途中から1日5人に変更。
従業員の不満は給料面だけでなく、個人面談の気安さからか、「昇給の基準は何か」「手当が少ない」「従業員食堂の食事がまずい」「工場が汚い」「トイレが暗くて臭い」「水飲み場が少ない」など、評価、手当、環境、安全などの各種要求が次から次に出てきた。
多額の資金を要するもの以外はすぐに対応した。LED電気250個を追加設置して工場やオフィス内を明るくしたのもそのひとつである。「ただ、なぜ今頃、こんな不満が飛び出してくるのかと不思議でした」(小林氏)。
実は、YTVIには以前から組合があるが、組合委員長は工場長が兼務していた。ベトナムでは珍しくない形態だが、これでは本来の組合が機能しない。従業員の不満が上がってきても、話が組合段階で止まってしまい、経営者側には伝わらないことも多くなる。そこで小林氏は組合執行部の改選を指示、委員長も組合員の総意で選出させた。
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