「格差社会」は、いかにして助長されてきたか アメリカンドリームは、こうして終わった
最後の「原理10 民衆を孤立させ、周辺化させる」では、本来ならば参加者であるはずの民主主義に一切影響を与えることができなくなった市民に残された選択肢は、弱者への責任転嫁であり、そこで産み出されるのは暴力と憎悪であることが指摘されている。
そして、なんとも皮肉なことに、こうした民衆の怒りや憎しみは、その本来向かうべき標的を見誤り、結果としてトランプ大統領の誕生に見られるように、「自分たちの利益を傷つけるような政治家たちを支持する」ようになったのである。
名も無い人たちの無数の小さな活動の積み重ねこそ
チョムスキーは、このようにアメリカンドリームが失われていった構造を明らかにすることで、金融界や多国籍企業による民主主義の形骸化やアメリカ主導のグローバル資本主義を批判する。そして、「政府の存在は自動的に自己を正当化するものではない」として一部のエリート層による支配とそこから生じる貧富の格差問題に真っ向から戦いを挑み、もう一度民衆の手に権力と自由を取り戻そうとしているのである。
チョムスキーは、本書の最後において、それでもまだアメリカは軌道修正できるとして、今の若者たちに希望を託し、次のように締めくくっている。
“何か物事を成し遂げようと試みるとき、わたしたちはまず学ぶことから始めます。世界がどのようになっているのかをまず学ぶのです。そしてその学んだことが、運動をどう進めていけばいいのかを理解することにつながっていきます。……
いま、主として若者の間で、ひとつの変化が起きています。変化というものがいつもそうであるように、まず若者の間で始まっています。しかし、それがどちらの方向に向かうのか――まさにあなたがたの肩にかかっています。あなたがたが示す方向に向かって運動は進んでいきます。
わたしが長い間、親しくつきあってきた友人に、ハワード・ジンという人がいます。かれは運動の進むべきあり方について次のように語っています。
「重要なのは、ひとりの偉大な指導者ではなく、名も無い人たちの無数の小さな活動の積み重ねである。そのような人たちが歴史に残るような大きな出来事の土台を築いてきたのだ」
そのような名も無き人たちこそが過去に何事かを成し遂げた人たちであり、将来においても何事かをなす人たちなのです。”
本書は、現代の知の巨人チョムスキーの思想と問題意識が非常に分かりやすく整理されており、翻訳もこなれているので、現代アメリカ社会が抱える構造的な問題を理解する上で、本書の基となったドキュメンタリー映画と合わせて、是非読んでおきたい一冊である。
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