「格差社会」は、いかにして助長されてきたか アメリカンドリームは、こうして終わった
こうしたチョムスキーの問題意識は、冒頭の「アメリカンドリームはどこに?」に書かれている以下の記述に集約されている。
富の不平等は、過去に前例がないほどに
“わたしは年をとっているからよく覚えていますが、あの1930年代の大恐慌当時の人々の気分・感情は、現在よりもはるかにひどいものでした。けれども、わたしたちの気持ちのなかには、いつかこの大恐慌から抜け出すだろうという希望がありました。状況は必ずもっとよくなると、みんな思っていたのです。「今日は仕事がないかもしれないが、明日には仕事があるだろう、だから力を合わせていっしょに働いて、もっと明るい未来をつくりだすことができる」という希望です。……ところが、現在、そのようなものは全く消えてしまって見当たりません。いま人びとのなかに広がっているのは、「もう何も戻ってこない、すべては終わった」という感情です。
ほとんどの夢と同じように、「アメリカンドリーム」は大きないくつかの神話を身にまとっています。たとえば、19世紀の夢のひとつは、小説家ホレイシオ・アルジャーが描いた主人公の物語でした。「俺たちは、いまは汚らしくって貧しいけれど、一生懸命がんばれば必ず出口が見つかる」という物語です。それは一定程度、真実でした。……しかし、そのような夢は現在のアメリカでは通用しません。いまや、社会的地位が上昇する可能性はヨーロッパと比べてもぐっと低くなっています。にもかかわらず、アメリカンドリームという夢だけは、いまだに残っています。権力による宣伝・扇動がそのような夢をつくりだしているからです。……
富の不平等は、過去に前例がないほどひどくなっています。……似たような時期は過去にもなかったわけではありません。たとえば、1890年代の「金ピカ時代」や1920年代の「狂騒の20年」などです。そのときの状況は現在と非常に近いものでした。けれども、いまのアメリカはそれをはるかに超えるものになっています。富の分配の不平等は、超富裕層(人口の0.1%)という大金持ちに起因しているのです。……
アメリカンドリームの重要な部分は、階級の流動性です。貧乏な家に生まれても刻苦勉励すれば豊かになれる、というものです。 すべての人がきちんとした仕事を手に入れることができ、家を買うことができ、 車を手に入れることができ、子どもを学校に行かせることができるというものです。 けれどもいまや、そのすべてが崩壊してしまっているのです。”
アメリカは本来的には民主主義国家であるが、建国当時からすでにエリート層の間では一般民衆の政治参加に対する懸念や警戒が存在していた。チョムスキーに言わせれば、これまで「特権階級や権力層が決して民主主義を好んだことはない」のである。
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