「格差社会」は、いかにして助長されてきたか アメリカンドリームは、こうして終わった

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階級の流動性こそが、アメリカンドリームの重要な部分だったのに…(撮影:倉沢美左)

本書『アメリカンドリームの終わり あるいは、富と権力を集中させる10の原理(Requiem for the American Dream: The 10 Principles of Concentration of Wealth & Power)』は、ノーム・チョムスキーへのインタビューによるドキュメンタリー映画『アメリカンドリームへのレクイエム(Requiem for the American Dream)』(2015年公開) を再構成して書籍化したもので、今年89歳になるチョムスキーのいわば遺言とも言うべき一冊である。

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日本では、チョムスキーの名前は世界で知られているほど有名ではないと思うので、まず初めにチョムスキーについて説明しておきたい。

チョムスキーは、50年以上在籍するマサチューセッツ工科大学(MIT)の言語学及び言語哲学の研究所教授兼名誉教授である。人間の脳には生得的な言語機能があり、全ての言語には普遍的な特性があるという言語生得説と生成文法理論を唱え、言語学の世界に革命を起こした「現代言語学の父」である。

それと同時に、ベトナム戦争以降、反戦運動などの市民運動にも積極的に関わっており、国家、戦争、外交、政治、マスメディアなどに関する膨大な著作を発表し、思想家・哲学者としても広く知られている。現在、存命中の全ての人物の中で、著作の引用件数が世界一であるとも言われている。

アメリカの民主主義がいかに格差社会を助長してきたか

こうした幅広い活動を通じて、チョムスキーの影響力は言語学界だけでなく、哲学、コンピュータサイエンス、心理学、社会学などにも広く及んでおり、2005年にはアメリカのForeign Policy誌で「世界最高の論客 (world's top public intellectual)」にも選ばれている。

そのチョムスキーのこれまでの活動の集大成と言えるのが本書である。50年前からアメリカ社会の富の偏重に警告を発していたチョムスキーが、これまでアメリカンドリームと言われてきたものがいかに形骸化し、アメリカ社会が富と権力を保持するエリート層によっていかにコントロールされているか、アメリカの民主主義がいかにして格差社会を助長してきたのかについて、詳細な検証を行なっている。

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