日本では、なぜ性被害者の肩身が狭いのか ジャーナリスト伊藤詩織氏に聞く

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性暴力へのタブー視や偏見がまだ根強い(撮影:今井康一)
2015年、ジャーナリストの伊藤詩織氏は米国での就業について相談していた元TBSワシントン支局長山口敬之氏から準強姦(ごうかん)の被害を受けた、と訴え出た。東京地検の不起訴判定に対し検察審議会に不服を申し立てたが、一切の説明なしに「不起訴相当」と退けられる。密室内での事件、そして逮捕寸前に警察上層部から飛んだ逮捕中止指令。幾重にも重なるブラックボックスの中で、伊藤氏が今訴えたいこととは。

──被害後、警察へ直行されませんでしたが、そんな冷静な判断をできる状態では到底なかった?

ではなかったですね。早朝、下腹部に裂けるような痛みを感じ、意識を取り戻しました。いったい何が起きたのか。現場のホテルへどう行ったか記憶がなく、状況を理解するのに時間がかかって、すごく混乱してしまった。自分の気を落ち着かせたい、安全な場所に行きたい、とにかく体を洗いたいと真っ先に思った。信頼していた相手が自分に対して犯した、まさに犯罪なんだとすぐに認識できませんでした。

そして、まずどうすべきかの知識も自分になかった。まして事件から時間が経つにつれ警察への届け出で不利になっていくことなど思いも及ばなかった。一緒に食事をしている最中に記憶がプッツリ途絶えてしまったのが何によるものなのかも、1、2日経ってやっと、米国でよく耳にしたデートレイプドラッグ混入の可能性を考えられるようになった。

「合意の壁」が立ちはだかる

──性暴力被害者を支援するNPOに電話したが、現実的な助けは得られなかった……。

まず面接してからでないと、どこへ行き、何の検査をすればいいかなどの情報提供はできない、と言われました。緊急時のホットラインなのに、わざわざ出向かないと何も教えられないというのでは、心身ともに衰弱しきった被害者には支援にならないです。

性行為があったことは山口氏も認めている。警察のDNA鑑定の結果、下着から山口氏のDNA片も採取されました。ただ問題はそれが合意の下かどうか、というところなんです。日本の刑法は被疑者の主観を重視する傾向があって、被疑者は当然「合意の下で行った」と主張する。被疑者が認めないかぎり客観的状況だけでは有罪になりにくいんです。心神喪失状態で記憶がなく、抵抗できない状態で犯行に遭う準強姦の場合、暴行・脅迫の証明が難しく、さらに“合意の壁”が立ちはだかります。

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