SNSでは、なぜ「デマ」が一気に拡散されるのか ユーザーが騙されやすいワケではない

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ミシガン州のイスラム教徒男性が複数の妻の生活保護を受け取っていたというデマのような、偽のニュースやロシアによる捏造記事の拡散において、微妙なバイアスはアルゴリズムによるランクづけや個人の選択と同じくらい重要な役割を果たしている。

無意識の関連づけが頭にすり込まれる

ニュースや投稿を理解するには、その真偽に対する疑いを一時的にだが解く必要がある。読み手はそこで語られている内容を「もしかすると真実かもしれないもの」として一時的に受け入れなければならないのだ。認知的な関連づけは自動的に行われる。ビル・クリントン=性犯罪者、ドナルド・トランプ=ナチス、イスラム教徒の男=生活保護というふうに。

流れてくるデマを論破するには、まず内容をはっきり把握しなければならない。この結果、無意識の関連づけは強化され、人が思うよりもずっと長く頭の中に残ってしまう。

否定したり修正したはずなのに、最初の誤った関連づけが後々まで強力に残ってしまうことも少なくない。「バラク・オバマはイスラム教徒だったっけ? そんな記憶があるなあ……」といったふうにだ。

デマ拡散につながるバイアスに関する最近の分析において、サイファートらはこの種の自動的に行われる認知的関連づけのせいで虚偽情報への信頼度が高まってしまう可能性があると指摘している。

もう1つの要素は反復だ。ニュースフィードの中で同じニュースの見出しを何回も目にするだけで、注意深く読んでもいないのに信憑性が増したような印象になってしまうのだ。たとえ友人たちが冗談のつもりでシェアしたデマだったとしてもだ。

また、セールスの世界では常識だが、人は親しい友人から得た情報や判断をほかから得たものより重んじる傾向がある。米国人の3分の2近くがニュースの少なくとも一部をSNS経由で得ている今日、こうした心理的傾向は重大な結果につながる可能性がある。

「情報に対する評価は交友関係によって左右される」とサイファートは言う。「私たちはよく知る人から得た情報については、その価値を重く見すぎてしまう」

SNSでのやり取りは斜め読みが多く、気楽に参加できるし、気の利いたことの1つも言いたくなる。そんなSNSのあり方が、この手のバイアスが強く作用してしまう原因になっているとサイファートは言う。

うさんくさい話をじっくりと読み、真の出どころを確認するのは手間がかかる。最初から疑ってかかる心構えのある人でさえそうだし、精神的にも疲れる作業だ。イデオロギー的思考や読む記事の選択は、自動的な認知バイアスがひとしきり働いた後でないと動き出さない、意識的なプロセスで、その背後にあるのが人と人のやり取りとアルゴリズムというSNSの本質だ。

「陰謀説が間違っているという(警察無線からの)直接的な証拠がなければ、私ももう少し本気で受け止めてしまったかもしれない」とマッキニーは言う。

(執筆:BENEDICT CAREY記者、翻訳:村井裕美)
(c) 2017 New York Times News Service

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