「ワンオペ育児」を単なる流行語で片付けるな 育児は「休暇」という考えは間違っている

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中原:ところで、出口さんは育児についてどんなふうに関わっていらしたのですか?

出口:わたしの家族からは、「あなたみたいに何もしない人が育児の話をするだけで腹が立つ」と、叱られています。わたしはまあ、高度成長期はとにかく仕事人間でしたので、やはり忙しかったですね。今では本当にアホみたいな話ですが、だいたい夜は宴席を1日に3つぐらい入れていましたから。6時スタート、8時スタート、10時スタートと。

中原:一晩に宴席3回はつらいですね……。

出口:とはいえ、土日は絶対に仕事しないとか、夏冬2週間は必ず休んで、家族と一緒に世界を放浪するとか、そうしたルールは決めていました。

浜屋:それはすごい。どうやって会社に2週間もの休みの許可をもらうのですか?

出口:簡単です。先に変更のきかない格安の飛行機の切符を買ってしまって、「解約できない切符です」と言って上司に見せるのです。

浜屋:実力行使ですね(笑)。

出口:「俺が金払ってやるから、これでキャンセルしろ」とか言う根性ある上司はいませんでしたので。

浜屋:今とは時代も違い、お忙しかったかとは思いますが、そういう中にありながらも、オン・オフは意識して切り替え、ワークライフバランスを実践なさっていたのですね。

出口:わたしはワークライフバランスという言葉は使ったことがありません。いつもライフワークバランスと言っています。

浜屋:なるほど、ライフが先なんですね。

出口:ワークライフバランスという言葉を使うだけで、無意識にワークがベースになってしまいますからね。

中原:よく考えたら、ワーク+ノンワークがライフですよね。本当はワークとライフが対になるわけがない。

出口:だからライフを先に考えて、ついでにワークのバランスも考えるという順序です。人間は、言葉を紡いで思考するものですから、言葉は大切にしないと。世の中を変えていくのも言葉の力ですから、「チーム育児」とか「ワンオペ育児からチーム育児へ」といった造語は、とてもすばらしいですね。

中原:よかったです。数年前は「ワンオペ育児」という言葉はまだなかったのですが、子育てをプロジェクトとして見なそう、それをチームで実行しよう、というコンセプトは最初から念頭に置いていました。

ワンオペ育児が流行語になってはダメ

浜屋:「ワンオペ育児」の状況にある人は以前から非常に多かったです。新たに「ワンオペ育児」という言葉が用いられるようになったことで、あらためてその存在が浮き彫りになった。そして、人知れず大変な思いをしていた人が「私、ワンオペでつらいです」と言葉で訴えやすくなった部分があります。そういう意味では、一過性のことかもしれませんが、この言葉が流行ったことの意味は大きいと思っています。

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中原:「ワンオペ育児」という言葉が流行って、「私、ワンオペなんです」と言えるようになったことは大きいと思うんです。ただし、それが「一過性の流行語」で終わってしまってはならない。あくまで「その先」が重要です。

くどいようですが、「ワンオペ育児、流行語だよね」で終わってしまってはダメなのです。これを「流行語」と片付けてはいけません。「その先、どうするの?」ということにこそ注目が集まる必要があります。そういう意味では、「ワンオペ育児」が注目を浴びるだけではダメなのです。「チーム育児」が流行語になる社会をつくっていかなければならないのです。

出口:じゃあ、「チーオペ」とか?

中原:チーオペ……。うーん、いまいちですね……。(笑)

出口:ごめんなさい、言葉のセンスがない。(笑)

中原:いえいえ、そんなことはありません。ですが、来年はぜひ「チーム育児」が流行語になってほしいものです。

井上 佐保子 ライター

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いのうえ さおこ / Saoko Inoue

通信社、出版社勤務を経て、2006年にフリーランスライターとなる。ビジネス誌、専門誌を中心に、企業の人材育成、人材マネジメント、キャリアなどをテーマとして、企業事例、インタビュー記事などを執筆。

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