「勤務医の過労死」を論じるにあたって私がやりきれないのは、有能で思いやりのあるタイプが死んでしまい、「そもそも他人の仕事をカバーできるだけの能力がない」「他人に自分の仕事を押し付けることを躊躇しない」タイプは過労死しないからだ。
私はふまじめだったので精神を病む前に辞表を提出できたが、まじめで上司の説教を素直に受け取るタイプだったら……命じられたとおりに働き続け……その挙げ句、最後まで行って(=逝って)しまうのである。
「女性がいつ妊娠・出産するかは本人の自由」ではあるが、同時に「出産・育児によるスキルやパフォーマンスの低下は、あくまで本人が責任を負うべき事柄」とも私は考える。少なくとも「周囲の支援(=周囲からの搾取)を前提としたシステムは、悲劇を繰り返すリスクが大きい」ことを警告したい。
女性活用としてのフリーランス
通訳という専門職は、圧倒的に女性が多い専門職であるが、だからと言って「ママ通訳問題」や「過労死裁判」的な話題を聞いたことがない。同様に、作家や漫画家なども女性がそれなりの割合でいるが、同様の問題を聞かない。というのも、基本的にはフリーランス(=個人事業主)が主流の職種だからだと思う。フリーランスの世界では、プロジェクト単位での業務請負が基本であり、「仕事と報酬」はセットで動く。あるフリーランスが産休に入ったならば、その仕事を代行する同業者は相応の報酬で報われるので、大きな軋轢は発生しない。何年間育休を取るのも本人の自由であるが、育休中のスキル維持は本人の自己責任であり、育休明けの仕事の保障はない。育児時短に関しても、「出産前の半分」にするのも「9割」にするのも本人の意思で調整可能である。「同年ならば同収入であるべき」という縛りはなく、むしろ「有能ならば収入は青天井、無能は淘汰」の世界である。
日本型雇用というシステムは、図3→図4のように崩れゆく一方である。一方、フリーランス(ノマドとも言う)という業務形態は、携帯電話やインターネット、SNSの発達によって、フリー料理人、フリー編集者、フリー医師、フリー人事コンサルタントetc……従来、考えらなかった職種のフリーランスが出現したり、その業種においての割合が増加する一方である。真に職場における女性活用を考えるならば、いい加減「正社員、年功序列、終身雇用」至上主義とは決別し、「妊娠~子育て中の女性はフリーランスとしてプロジェクト単位で雇用し、実績に応じた報酬を支払う」ことを真剣に考えるべきだと私は思う。また、こういう制度を作っておけば、同時に定年延長社員の活用にも有用だと考えている。
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