薬局が病院の周りにやたらと溢れかえる事情 結局、患者の薬代負担を増やした政策の是非

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国が医薬分業を推進したのは、処方される薬を医師と薬剤師双方がチェックすることで安全性を担保するとともに、医師が薬から利益を得るために患者に不用な薬を大量に出す「薬漬け医療」を減らせば、医療費も大幅に抑制できると判断したためだ。

だが実際は薬剤費に薬局の技術料分が上乗せされるため、医薬分業が進めば進むほど、調剤医療費は増加することになる。国の狙いは外れ、大手チェーン薬局が高収益を享受する一方で、調剤医療費は逆に膨らむ羽目になった。

実際、財務省が示した高血圧や糖尿病などで28日分の内服薬が処方されたケースでは、薬剤費を除く投薬費用に関しては、3割の自己負担分だけでも、院内処方だと420円で済むところ、院外処方だと1820円と4倍以上になる。

問題は患者がこの差を納得できるだけの機能を、薬局が果たしているのかどうかだ。薬局の報酬となる技術料(調剤医療費7.4兆円のうちの1.8兆円)は、処方箋受け付け1回ごとに算定される「調剤基本料」、処方する医薬品の錠数などによる「調剤料」、服薬指導の「薬学管理料」から成る。

調剤も服薬指導も誰がやっても同じ作業

その実態は、「基本料は単なる入場料で、調剤も医師の処方箋の記載どおりの作業。服薬指導もマニュアルどおりに話せばよいだけ。つまり誰がやっても同じ作業で、薬学部で学んだ専門性を生かす機会がまったくない」と、複数の薬剤師は口をそろえる。

こうした指摘に対して、厚労省は2015年10月、「患者のための薬局ビジョン」を発表した。核となったのが、「かかりつけ薬剤師・薬局」だ。2025年までにすべての薬局は24時間対応や在宅対応を果たすことが必要だとする、薬局再編像を示した。この方針を受けて前回の2016年の報酬改定で新設されたのが「かかりつけ薬剤師指導料」だ。一定の要件を満たした薬剤師が患者の同意を得れば、従来よりも高額の報酬を算定できることになる。

厚労省幹部は「医薬分業にはコストに見合うメリットがあるというのが厚労省の考えで、かかりつけ薬剤師の果たす役割はそれを示すものだ」と、その狙いを語る。ただこれは、院内処方に比べ3倍超かかる費用に見合う価値を薬局・薬剤師が提供しているのかという、本来の問いに対して直接答えたものではない。「批判をかわしたどころか、逆に新たな加算をつけるなど肥大化している」(政府関係者)といった声もある。

調剤報酬の改定をめぐる議論が11月から本格化する。今回の財務省の問題提起は、特定の形式ありきではなく、患者にとって本当にメリットのある薬局・薬剤師のあり方とは何なのか、ゼロベースで議論する格好の機会になるといえそうだ。

『週刊東洋経済』11月6日発売号(11月11日号)の特集は「薬局の正体 ―膨張する利権と薬学部バブル―」です。
風間 直樹 東洋経済コラムニスト

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

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