アパレルはCSR活性化の起爆剤になれるのか ファッションと社会貢献は親和性が高い

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CSRというと、慈善活動や法令順守、環境保護などが往々にしてイメージされ、事業とは別軸で存在するものとして考えられがちですが、CSRそのものが事業ドメインになる可能性もあり得ます。むしろアパレルは、直接的な形でCSRを表現しやすいビジネスなのです。

私はアパレルと社会貢献の親和性は高いと考えており、やり方によっては日本にCSRを浸透させていく起爆剤になり得ることも可能だと考えています 。日本でもCSRに力を入れる大手企業は徐々に増えており、2015年度に経団連が行った調査によると、社会貢献活動全体の支出は1804億円で、3 年連続で増加しています。

たとえば、難民の自立支援や障害者雇用などを積極的に行ってきたファーストリテイリングは、昨年末に「CSR部」を「サステナビリティ部」に改組しました。単発的な支援ではなく、長期的に社会的責任を果たそうという考えが見て取れます。

ファッションが担う可能性とは

災害が起きた際、チャリティーアイテムを販売したり、売り上げの一部を寄付に充てたりするファッションブランドは多々見られます。即時的に寄付金を集める上では効果的ですが、時間の経過と共に支援活動は徐々に下火になっていきます。実際、「東日本大震災」と「平成28年熊本地震」に関連するチャリティーアイテムを見かける機会も徐々に少なくなってしまいました。

ただ、企業活動に転化できていないだけで、社会貢献への意識を持っている人たちはたくさんいます。被災地支援に関しても、支援金こそ減ってはいるものの、ボランティア活動や産業再生、雇用創出、心のケアなど、お金に換算できない間接支援は継続的に行われています。

熊本地震の後、ファクトリエでもYMCAさんや行政と協力し、避難所へ衣類を提供しました。熊本に本社を置く企業としてチャリティーTシャツの販売を続けています。

メディアによる報道量が減少していく中、脳裏から震災が薄れてしまうのは仕方のない面もあります。しかし、東北や熊本が復興を遂げるにはまだまだ長い道のりが待ち受けています。社会問題に対する支援は、長期的な視点で行うことが大切です。課題となるのは、日々の生活の中でいかにして人々の意識に社会問題を浸透させていくかです。

CSRをカルチャーとして根付かせるために、ファッションが果たせる役割は、いくらでもあるはずです。そして、未来の社会や環境をより良く変えていくことは、アパレル企業自身の未来にとってもプラスになります。

総務省の家計調査によれば、2人以上の世帯あたりの被服に対する支出は減少の一途をたどります。アパレル市場を取り巻くマーケットが苦境に陥っている今、持続可能性に配慮した取り組みを行うことは、アパレル企業が取るべき最善の道といえるでしょう。

山田 敏夫 ファクトリエ代表

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やまだ としお / Toshio Yamada

1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学し、グッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。2012年、ライフスタイルアクセント株式会社を設立。2014年中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員に就任。2015年経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。年間訪れるモノづくりの現場は100を超える。

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