理由の1つは性別、国籍、年齢など見た目だけに多様性があっても、必ずしも能力や知見や経験が多様化するわけではないこと。2つ目は、人間はどうしても心理的に見た目で判断することは避けられず、相手の能力の前に性別や国籍や年齢といった目に見えるもので無意識のうちに区別をしてしまうためです。
この違いを理解しておかないと、多様性を活かすどころか、まったく混じりあわずに組織やチームが分解しかねません。事情の多様性は個人の制約につながっていることも多いため、注意が必要ですし、能力の多様性は価値観が共有されていなければシナジーを生むことがないからです。
日本企業は単一民族で終身雇用という長い歴史もあり、デモグラフィー型ダイバーシティは世界に比べてかなり遅れをとっているのは皆さんご存じのとおりです。ではさまざまな事情の違いを乗り越えていくにはどうしたらいいでしょうか。施策の例をいくつかご紹介します。
事情がある人との働き方 「私のトリセツ」
「制約社員」が多いチームでは、メンバーの事情に合わせて配慮をする必要があります。その一方で、限られたリソースで仕事を回していくためにやるべきことはやらなくてはいけません。無理をさせないようにしつつ、生産性を上げなくてはいけないのです。
これは、制約社員が多いかどうかにかかわらず、限られた人数で長時間労働を脱却しようとしているチームは、この課題を解決する必要があります。
そこで、まず必要なことは、チームのメンバーについてよく知ること、メンバーがお互いを知ることです。
そのために導入したのが、「私の取説(トリセツ)」という方法でした。これは、自分がどんな事情を抱えていて、どんな配慮をしてほしいのかを、チームのみんなの前で明らかにするというものです。
たとえば、Aさんは、お母さんの介護をしているので基本的には○時までに帰宅しなくてはいけない。
Bさんは、通院があるので月に1回どうしても出勤できない日がある。
Cさんは、子どもが小さいので、急病で休むことがある。
ポイントは、配慮してほしい事情を明らかにしてもらうと同時に、どういう貢献ができるかも表明してもらうことです。たとえば、「ケアワーカーさんが来てくれる水曜日は遅くまで仕事ができる」「1週間前に言ってもらえば終業後の勤務も可」といったことです。
「こういう事情があるから配慮してほしい」というだけだと、カバーに回るメンバーの不公平感が強くなってしまいます。だから「これならできます」ということもセットにする必要があるのです。
「私のトリセツ」を実施して、それまで職場にあったギスギス感はかなり解消されました。
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