40歳無職男性と結婚・出産した女性の「計算」 出産のリミットを前にしての決断

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しかし、2人の苦労は娘の出産後にあった。育児休暇を取得した智美さんは実家に戻らせてもらい、60代半ばになっていた両親と久しぶりに同居をすることになった。母親は孫をかわいがる一方で、子どもを中心に生活を考える智美さんの言動に納得がいかなかった。家の中がうるさいので娘が寝ないと訴える智美さんに、「自分の子どもだけではなく、周りの人のことも考えなさい」と指摘。すでに定年退職をしてつねに自宅にいる父親は、子どもが生まれたのに、ちゃんと働こうとしない婿のことをなじり始めた。いずれも正論ではあるが、夫不在での初めての子育てに必死な智美さんは不満が募った。

「お世話になっているのはわかりますが、1日でも早く実家を出たいと思っていました」

住環境が変わったのは今年の春。1年間の育児休暇を終え、娘を保育園に預けることができた。雅史さんの勉強中心生活は変わらないが、この機に一緒に住むことにした。

教育費などを考えると不安で仕方ないが…

智美さんは職場復帰したものの、保育園のお迎えのため、時短勤務をしている。夫が夕方出勤の夜勤アルバイトを続けているためだ。手取り給料は以前より10万円減の16万円。ボーナスと、雅史さんのアルバイト代を含めても、世帯年収は400万円ほどだ。娘の教育費などを考えると、智美さんは不安で仕方ない。

「夫は子どもの面倒はちゃんと見てくれています。朝ご飯を作って食べさせて、着替えさせて、保育園に送っていく。ほかの家事も、私が頼んだことはきちんとやってくれます。彼には専業主夫になってもらい、私が仕事に完全復帰して稼ぐほうがいいかな……」

智美さんによれば、夫が家事や育児にますます協力的になったことには理由がある。同居して半年がたった頃、夫が「したい」と言い出し、2年ぶりにセックスを再開したことだ。

「今ではリビングで寛いでいるときも手をつないだりしています。私は特に変わりませんが、夫の機嫌がよくなってびっくりです。子どもだけではなく、夫にも手をかけられるようになると生活がうまくいくんだなと感じています」

雅史さんは難関国家試験への挑戦は今年で最後だと宣言している。不合格であれば、ちゃんと稼げる職を探すという。試験勉強のためとはいえ、5年以上もブランクのある雅史さんの職探しは簡単ではないだろう。しかし、必死で働き続けてきた智美さんの経験と知恵を生かせば、細かい事務作業に向いていそうな雅史さんに適した仕事が見つかるはずだ。試験の合否がどちらであっても、来年には収入アップの見通しが立ち、親子3人の暮らしがさらに明るくなっている気がする。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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