長時間労働で「管理職に罰金刑」ドイツの実際 ドイツ好況は「1日8時間労働」で実現した

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今日のドイツは、スキルを持った人々にとって、ほかにいくらでも就職先がある“売り手市場”なので、わざわざ労働条件が悪いブラック企業で働こうとは思わないのは当然だ。

したがって、多くのドイツ企業は「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)を改善し、優秀な人材を集めようとしている。

罰金は管理職のポケットマネー

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ドイツ企業の管理職は、どんなに仕事が忙しくなる時期でも、部下の勤務時間が1日10時間を超えないように、口を酸っぱくして注意する。

なぜならば、企業が事業所監督局から罰金の支払いを命じられた場合、会社の金で罰金を払うのではなく、長時間残業をさせていた部署の管理職に“自腹で”払わせることがあるからだ。最高1万5000ユーロ(180万円)の罰金をポケットマネーで払わされるというリスクは、“かなりの抑止力”となる。しかも、「部下の勤務時間をきちんと管理できない」と勤務評定も悪化し、出世の道が断たれる可能性さえある。

長時間労働を防止するため、社員のパソコン画面に「あなたの勤務時間は、もうすぐ10時間を超えます。10時間以上の労働は法律違反です。直ちに帰宅してください」という警告文がポップアップされる会社もある。

さらに、部下の勤務時間が10時間を超えそうになると、上司のパソコン画面に警告文が出て、部下の退勤を促す仕組みもある。

ドイツでは「ワーキング・タイム・アカウント」(労働時間貯蓄口座)というものが労働者全体の約6割に普及しており、残業時間を銀行口座のように貯めて、有給休暇などに振り替えられる。この口座がプラスである限り、好きな時刻に出社し、好きな時刻に帰ることができる。

また、口座で、累計残業が60時間を超えていたあるドイツ人社員は、上司から「どうやって累計残業時間を減らすか説明しなさい」と問いただされたという。この社員は、累計残業時間が減るまで毎日午後3時に退社したり、代休を取得したりしたそうだ。彼は、上司から「働きすぎだ」と注意されたわけである。

日本のサラリーマンは、ドイツのサラリーマンに比べて非常に不利な立場にあることを強く認識するべきだ。私の日本人の知り合いからは、「日本はドイツとは違うのだから、仕方がないよ」というつぶやきを聞くことがある。本当にそうだろうか?

日本人も定時退社したり長期休暇を取ったりして、人生を楽しむべきではないだろうか。上手にリフレッシュすれば、必ずや仕事との好循環も生まれるし、残業が多く、まとまった休みも取れない現状は、悪循環を生んでいるともいえる。

すべての人に、人生を楽しむ権利がある。仕事だけではなく、自分や家族のために時間を使うことは、悪ではない。

熊谷 徹 在独ジャーナリスト

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くまがい とおる / Toru Kumagai

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。1990年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に『ドイツの憂鬱』『新生ドイツの挑戦』(ともに丸善ライブラリー)、『あっぱれ技術大国ドイツ』『ドイツ病に学べ』『住まなきゃわからないドイツ』『顔のない男 東ドイツ最強スパイの栄光と挫折』(すべて新潮社)、『なぜメルケルは『転向』したのか ドイツ原子力四〇年戦争の真実』『ドイツ中興の祖 ゲアハルト・シュレーダー』(ともに日経BP社)、『偽りの帝国 フォルクスワーゲン排ガス不正の闇』(文藝春秋)、『日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ』(洋泉社)、『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』(SB新書)など多数。『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』(高文研)で2007年平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞受賞。ホームページ:http: //www.tkumagai.de

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