たとえば、取材した中堅の人材派遣会社は社長が「退路を断って働き方改革に取り組む覚悟です」と決意のメッセージをメールで全社員に発信。本社人事部で残業ができないように照明を消す、有給を取得させるルールの適用など、強制力のある施策を徹底しています。
その会社では、19時に帰社を勧めるチャイムのような音が鳴り、20時には自動的に照明が落ち始めるとのこと。これまでは終電近い時間帯まで相当数の社員が残業をしていました。ところが残業したくてもできない状況に変わったのです。まさに働く環境は大きく変わることになりました。こうした強制力のある施策を実施している会社は、それなりの効果(時間削減)が出ています。現場の社員も「そこまでやるなら仕方ない」と覚悟が生まれたのかもしれません。
では、今後も時間削減は継続されるのか? 筆者は続くと思います。その理由は後戻りできない状況になっているからです。
これだけ働き方改革で残業がなくなる会社が増えている状況で後戻りするなら、社員は辞めるか、新規に採用したくてもできない会社になってしまうのは明らかです。“護送船団方式”で時間削減に舵が切られた状態で、自社だけ別の方向に進もうとしても、それを貫くことは難しいでしょう。
ちなみに、過去に似たような時間削減の取り組みがまったくなかったわけではありません。いわゆる、労務問題として個別指導がされた場合の是正活動として労働時間削減は行われてきました。ただ、のど元過ぎると熱さを忘れて
「忙しいから残業は仕方ないのではないか?」
と徐々に長時間のワークスタイルに戻ってしまうことが繰り返されてきました。が、今回は政府の本気度が企業にも伝わっており、時間削減の取り組みは継続し続けるのではないでしょうか?
現在の取り組みによる成果で十分なのか?
取材していても、後戻りしない覚悟が多くの会社で醸成され始めている気がします。ただ、現在の取り組みによる成果で十分なのでしょうか? 筆者はそうは思いません。
強制的な施策で最低限の時間削減はできたかもしれませんが、各人の仕事の進め方に内包している無駄の削減にまでは至ることはできていないと考えます。
たとえば、規定の時間になったら強制的に退社する状況になり、深夜の残業はなくなりますが、勤務時間中の仕事で本当に無駄はないのか? あるいはやめても構わない仕事はないか? それを「精査」することなしに、本当の成果は望めません。20時以降の残業はできない……とのルールが、20時までは残業ができると受け止められてしまうこともあります。そうなると時間削減がそれ以上は進まなくなる可能性があります。さらなる時間削減の余地を探して、本当に無駄のない効率的なワークスタイルにするためには、現場の管理職にリーダーシップが必要になりそうです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら