神保町で異色出版社を興した男の譲れない志

紆余曲折の末、「作りたい本」にたどり着いた

「初期の頃はよそで稼いだおカネを、東京キララ社に突っ込んでました。正直サブカルチャーの本は儲かるものではないですし、大変な茨の道を歩んでいるんですが、本を出し続けたおかげで会社を存続させることはなんとかできるようになってきました。従業員もここ数年で増えてきましたね。東京キララ社という名前も10年前は、ごく一部の関係者、表現者しか知らなかったですが、最近はある程度知られてきたと認識しています。それでも『商売になっているか?』というと、『どうだろう?』って感じですが。

ただ、そもそも出版を商売とは思ってませんね。むしろギャンブルだと思ってます。当たればビルが建つ世界ですからね。商売を目指して本を作ったら、つまらない本になるのは目に見えているんですよ。本はクオリティが高ければ売れるワケではなくて、売れるためにはわざと品質を落とさなければならないんです。でもそんな本、作りたくないじゃないですか」

中村さんがいちばん嫌いな言葉はマーケティングだ。そこいらの一般の人たちのご機嫌をうかがって、本を作るなんておかしい。マーケティングだのコンサルティングだの言っている人は全員、紳士面した詐欺師だと思っている。

「編集主導ではなくて営業主導で本を作ったら、どんどん面白くなくなっていきます。本はそもそもただの商品ではなくて、文化的なもの、だからこそ再販制度で守られているんですよね? みんな忘れているんじゃないでしょうか? 僕には大した力はありませんが『僕こそが出版界の良心で、出版界を背負っている』って本気で思ってます。うちは作りたい本しか作りません。気の置けない信頼できるメンバーでしか作りません」

出版業界の見通しは決して明るくないし、バブル期から続く実家のごたごたもいまだに終わっていない。

やるべきことが決まっているので不安は感じない

ただ中村さんは、将来に対する不安で押しつぶされそうになったことは一度もないという。

「自分1人ならどうやったって生きていけるというのが前提としてありますね。後は、やらなければならないことが決まっているので、不安に感じているヒマがないんですよね」

編集として裏方の作業をしてきたが、最近では中村保夫として、表に出て仕事をすることが増えてきた。

「出版とは別に活動していた和物DJ(日本の曲をつないでDJをするスタイル)として知られるようになりました。僕が動けば、みんな反応してくれるようになってきました。

これからは裏方として本を作るだけではなく、僕自身も本も書きたいし、映像も作っていきたい。やりたいこと、やらなければならないことを一個一個片付けるだけで忙しくて、遊んでる時間もないんです」

中村さんに、「自分のいちばんの才能は何か?」と聞いたら「放り出さないこと」との答えが返ってきた。

実家でのトラブルや、就職先でイジメにあっても、出版活動がうまくいかない時も、絶対にあきらめずに立ち向かう。戦い続けるのだ。

中村さんは生まれ育った神保町に対し強いアイデンティティを持っている。

九州から帰ってきた後は、神保町には家がなくなっていた。神保町から離れて暮らしていたが4~5年前にやっと、戻ってくることができた。実に30年ぶりだった。知り合いの多くは、印刷屋、古本屋、出版社と本に携わっていた。バブルの時にみんないなくなってしまったが、それでも神保町が本の街であることには変わりない。

「やっと戻ってこられたって感じですね。自分の生まれた街で一生を過ごすというのは普通のことなんじゃないでしょうか? 僕は神保町で仕事をして、神保町で死にたいと思っています。もう二度と離れる気はないですね」

中村さんは、自分が神保町で生まれたということは特別な意味があると思っている。

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