それでは、アベノミクスのどの政策が経済パフォーマンスの改善に影響したのか。まず成長戦略についてだが、評価は難しい。ただ、前出の7月31日付コラムでも述べたが、投資家の立場で金融市場をみれば、成長戦略の発動や成否によって、過去4年で日本株市場の趨勢が影響を受けたことはない。
そもそも、個々の産業や企業に影響する規制見直しなどは、日本のような先進国経済のパフォーマンスへの影響は軽微である。総需要不足+デフレの克服が問題となっている日本ではなおさらである。あえて挙げれば、インバウンド消費拡大のひとつのきっかけとなったASEAN諸国などへのビザ要件緩和が、GDP全体をある程度高めたという程度だろう。
第2の矢である財政政策はどうか。財政政策がGDPをどの程度拡大または縮小させたのかをみる一つの指標がある(IMFが試算する構造的な財政赤字の前年からの変化幅)。この指標によれば、財政政策がGDPに及ぼした影響は、2013年は0.1%緊縮とほぼ中立だったが、2014年は2.0%緊縮、2015年1.2%緊縮、と財政政策は一貫して緊縮財政が続いてきた。公共投資など一部の歳出が増えても、他の歳出抑制で歳出全体は増えず、そして2014年の消費増税のインパクトが極めて大きかった。
ちなみに、2016年は0.1%緊縮と緊縮財政から2013年と同程度の中立に戻ったということになる。2016年半ばに安倍政権が大規模な補正予算を策定したが、追加的な歳出拡大は実際にはごく一部にとどまっていた可能性がある。2016年分については、昨年の補正予算執行が反映され今後数値が改定される可能性はあるが、過去4年半で財政政策は、経済成長率を抑制する方向で作用してきたことは明らかである。
アベノミクス批判には傍証が必要
これらの事実を踏まえれば、過去4年半の日本経済のパフォーマンス改善をもたらしたのは、第1の矢である金融緩和政策がほとんどだった、ということになる。金融緩和政策によるGDP押し上げ効果については、日本銀行による試算があり、2013年以降の金融緩和政策が2013年から2015年の3年間で最大で4.2%ポイントGDPを押し上げたとされている。過去4年半の1.2%のプラス成長の多くが、金融緩和政策によってもたらされた、ということが可能である。
以上が客観的なデータなどを踏まえた、筆者によるアベノミクスの評価である。この認識が100%正しいとは筆者も考えないが、アベノミクスを批判するのであれば、なんらかの傍証を示す必要があるだろう。そのうえで建設的な議論が行われれば、アベノミクスを超える経済政策を民進党が示すことができるかもしれない。ただ実際には、新しい民進党執行部の現状の認識が変わらないとすれば、それはまったく期待できないだろう。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら