「1強体制」固める中国・習近平の思想と対日観 激しい権力闘争の中、10月に党大会を迎える
もとより、中国企業が生産拠点を日本に移すことで、高度な技術とノウハウを得ることができるが、今のところそうした中国企業は1社のみしかない。政府は今年の経済成長目標を「6.5%前後」としたが、政府は目標達成に向けた経済政策を相次ぎ打ち出し、景気を底上げしているのが実態で、構造改革という「宿題」は積み残されたままだ。党大会後の中国経済の減速と成長の「鈍化」を予測するのは、私だけではないだろう。
他方、経済を利用した習氏の「権威付け」は着々と進んでいる。習氏は今年に入り、「自由で開かれた世界経済を堅持する」と繰り返し反保護主義の立場を表明してきた。しかし、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権を意識し、中国が代わりに自由貿易の「保護者」たろうとするアピールは、単なる「スローガン」に過ぎない。
9月3日から5日までは、党大会前の最後の国際会議である新興5カ国(BRICS)会議がアモイで開催された。中国の主要メディアは、習氏が1期目に取り組んだ貧困対策などを振り返る特集を組み、党大会を盛り上げようと躍起になっていた。
さらに遡れば、4月1日の『新華社通信』電は、「千年の大計であり、国家の大事だ」と習氏が語った一大プロジェクトを公表した。北京に隣接する河北省に大規模な新都市「雄安新区」を建設する構想だ。1980年代以降に中国の発展を牽引してきた深圳、上海、浦東に続く別格の特区として位置づけられており、湖北省はかつて習氏が勤務した地であるだけに、党大会に向けた実績作りと見られる。
習氏や指導者層の対日観は「日本軽視」
トランプ米大統領の訪中に先んじて、中国党中央弁公庁は中国外務省に対し、「トランプ氏の娘イヴァンカ夫妻の党大会前の訪中が絶対命令だ」とし、9月訪中の日程調整もなされたようだ(『産経ニュース』2017年8月31日)。存在感を内外にアピールしたい習氏は、トランプ氏の家族に的を絞り、党大会の開催を格好の「演出の場」としたいのだ。
日中関係では、尖閣諸島周辺での中国公船の領海侵犯と、接続水域での接近行動の頻度と継続性が増している。5月の「一帯一路」国際会議で、習氏は二階俊博自民党幹事長や今井尚哉首相秘書官らと会見した。通常、隣席に座らせる側近中の側近である栗戦書(党中央政治局委員)や王滬寧は不在だった。習氏が対日関係を改善したくない証拠だ。習氏や中国指導者の対日観は日本軽視で、対日関係を改善しても意味がないと考えている。「中国の軍門に下らない日本の安倍総理」を習氏は見下している。来たる党大会前後に中国発の一大事(たとえば習氏に対する反発、すなわち党内闘争の激化など)が起きれば、闘争の材料として尖閣問題に飛び火しかねない。しかも、尖閣や南シナ海問題で、習氏が直接指揮していることが、中国共産党学校機関紙『学習時報』で報じられている(『文匯網(快訊)』2017年8月27日。『東亜』2017年9月号所収の濱本良一著「中国の動向」など)。
海上自衛隊OB筋によると、尖閣の領海の外で、中国海軍が待機しているようだ。この厳しい現実に基づく発想と戦略的思考の構築が日本外交には求められる。と同時に、米、台湾、ASEAN諸国(インドネシア、ヴェトナム、ミャンマーなど)やインドとの連携によって、中国との論争に挑むことで、日本外交の「偏差値」を上げるしかない。
(文:井尻秀憲/東京外国語大学名誉教授)
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