「1強体制」固める中国・習近平の思想と対日観 激しい権力闘争の中、10月に党大会を迎える

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ここで私が疑問に思うのは、「五位一体」や「4つの全面」を公約に謳ったのは習氏自身だが、「小康社会」(いささかゆとりのある社会)は胡錦濤時代、「私有企業のオーナーも含む広範な人民の利益を代表するのが共産党」という公約は江沢民時代のキーワードであり、習氏の「学習要綱」に新鮮味がない点だ。

しかも、習氏のこの講話のなかに、「中国の特色ある社会主義」の文言が10回出てくるのも私には解せない。この文言は、これまで指導者の一般的表現として使われてきたものなのに、なぜ敢えて10回も強調したのか。むしろ最近の習氏は、「小康社会」への言及の頻度を高めている。となると、香港誌『亜洲週刊』(2017年8月27日)が詳しく論じているように、江沢民、胡錦濤、習近平という3代の指導者の側近・王滬寧(党中央政治局委員であり、党の重要理論起草にも参画した政治哲学者)らが、すでに触れた「五位一体」と「4つの全面」を何らかの形で理論化し、当規約に盛り込む可能性が高い。

来たる党大会で、そうした「習近平思想」を党規約に盛り込めれば、習氏にとっては大きな成果になるが、それが「神格化」すると中国人民は支持しないだろうし、党内の反発も出るだろう。

重要なのは「子飼い」の人物をどれだけ押し込めるか

また、党大会では毛沢東時代の「党主席制」の復活と政治局常務委員会の制度改革が重要になる。さらに最も重要な問題は、7人の常務委員とそれを含む25人の政治局員に、習氏の子飼いの人物をどれだけ押し込むことができるかだ。

党と軍との関係では、8月1日に北京人民大会堂で建軍90周年記念式典と軍事パレードが実施された。パレードを閲兵する習氏の態度は、これまで以上に最高司令官としてのイメージ作りに貢献した。ここでの習氏の講話で、「軍民融合=軍民一体化」を国家戦略に格上げし、共産党が軍を取り込み民間と一体化することで、「人類運命共同体」の構築を訴えた(『人民日報』2017年8月2日、『東亜』9月号所収の濱本良一筆「中国の動向」など)。国産空母の進水も党大会にむけて準備されている。

習氏にとっては、党総書記=2期10年の現行規約は暫定的規約なので、今回の党大会で変更の必要はない。ただ、前記の『日本経済新聞』や香港紙などが触れているように、党主席復活となると、規約を改正して党主席制を盛り込まなければならない。

党大会に向けた不安定要素もある

「政経分離」という表現があるが、私はこの言葉に違和感がある。どこの国であれ、「政治」と「経済」を分けるには困難を伴うからだ。中国の「汚職摘発キャンペーン」も、官僚の不作為(サボタージュ)で仕事が進まず経済に打撃を与える副作用をもたらしてきた。

党大会に向けた不安定要素は経済だ。舵取りを誤れば指導部批判に直結しかねないアキレス腱だ。党と政府は経済の「安定」演出に全力をあげ、「演出」のための「数字合わせ」さえ厭わない。

習氏は今年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、中国経済の急成長を誇示しながら、「『新常態』に入った中国には、重大な変化が起きつつある」と認めた。「新常態」とは、輸出主導の高度経済成長から転換し、国内市場を基盤にした安定成長に向けた産業構造の供給型改革を指す。

だが、中国経済の「新常態」が言われ始めてすでに久しいが、国有企業の構造改革は全くと言っていいほど進んでいない。日本の会計検査院に当たる中国の審計署は、大手国有企業18社の不正を公表した。現在行われているのは、企業の過剰生産の調整といった程度で、既存の工場で質の高い製品を作り出すための高度な技術すら買ってはいない。闇鉄鋼の過剰生産が問題になるくらいだから、製品の生産量の調整や腐敗問題だけでも相当の困難を抱えていると見るべきだろう。この問題は深刻なもので、「ジョーク」も言えないくらいだ。

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