話題の「ケトン食でがんが消える」は本当か 最新知識を第一人者が解説
現在、医学界では、ケトン体をがん治療に用いる研究に注目が集まっています。
たとえば、動物のがん細胞を入れたシャーレにケトン体を投与すると、がんが縮むことがわかっています。
私にも、糖尿病でがんもあるという患者さんに糖質制限食を指導したところ、がんの存在を示すマーカーの値が下がったという経験があります。高雄病院式のスーパー糖質制限食(「糖質制限でも痩せない!」にはこう対処せよ)を実行すると、ケトン体の値が高くなり、がんによい効果があったのではないかと考えています。
残念ながら今のところ、なぜケトン体にがん抑制効果があるのか、そのメカニズムはわかっていません。
ただ、インスリンには発がん作用があることが知られており、ケトン食や糖質制限食で血糖を減らしてケトン体を増やせばインスリンをあまり出さずに済むため、抑制効果があるのかもしれないと考えられています。
また、そもそも、がん細胞はブドウ糖だけをエネルギー源としますから、糖質制限はがんに対する“兵糧攻め”になるとも考えられます。
「ケトン体によるがん治療」の最新研究
がんとインスリンに関連してこんな仮説があります。
がんの末期ではインスリンが異常に出ている可能性がある。がん細胞そのものにインスリンを出させるメカニズムがあり、自分のエネルギー源である血糖を取り込みやすくさせているのではないか。
実は、大阪大学の末期がんの患者さんで数例、異常にインスリンが出ているケースが確認されているのです。大阪大学では現在、糖質制限食のがん抑制効果について積極的な研究が行われています。
このほか2015年の第53回日本癌治療学会学術集会において、肺がんの末期であるⅣ期の患者さん5人にケトン食治療を行ったところ、2人が寛解(症状が落ち着き安定)し、それぞれ32カ月間と20カ月間生存中、1人ががんは残るものの26カ月間生存中、あとの2人はケトン食を継続できずに死亡という、大阪大学大学院医学系研究科漢方医学寄附講座・萩原圭祐准教授らの発表がありました。
肺がんのⅣ期患者の生存中央値が8~10カ月ですから、かなり効果があったわけです。
海外でも、2015年には権威ある医学雑誌『ネイチャー・メディスン』に「ケトン体が炎症を抑制する」という論文が発表されました。
また、2011年8月からアイオワ大学とNIH(米国国立衛生研究所)が共同で、肺がんとすい臓がんに対するケトン食の効果を確かめる臨床試験を開始しました。残念ながらこの研究は、症例が集まらなかったのとコンプライアンスが悪かったということで2017年7月に終了となりましたが、このほかにもさまざまな「ケトン体によるがん治療効果」についての研究が進められています。
現在のところ、ケトン体にはたしてがん治療の効果が本当にあるかどうか、まだ結論は出ていません。しかし、その可能性には大きな期待が寄せられている状況なのです。
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