東芝、「限定付適正」でも危機状態は変わらず メモリ売却は難航、事態打開に奇策を検討か

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皮肉なことに、東芝の足元の業績は絶好調だ。2018年3月期第1四半期(2017年4~6月)の営業利益は996億円。第1四半期として過去最高を記録した。しかも、この好業績を牽引しているのが売却予定のメモリ事業である。

東芝が手掛けるNANDフラッシュメモリは、スマートフォンやサーバー用の需要急増で市況は活況を呈している。メモリ価格が上昇する一方、微細化や3D化で生産コストは低下。結果、第1四半期にメモリだけで会社全体の9割超となる903億円の営業利益を稼ぎ出した。

会社は2018年3月期の営業利益を4300億円と予想。達成すれば、1990年3月期に記録した過去最高の3159億円を大きく更新することになる。このうちメモリ事業が3700億円を稼ぐ見通しだ。

2018年3月までに思惑通りメモリ事業を2兆円程度で売却できれば、7000億円の売却益(税引き後)を計上でき、債務超過は解消され、上場も維持できる。が、それは同時に稼ぎ頭を失うことを意味する。

東芝は米国会計基準を採用しているため、同事業の収益は期初にさかのぼって非継続事業扱いとなる。単純計算で営業利益は4300億円から600億円にしぼんでしまう。

メモリ事業売却の”断念”も

今のところメモリ事業以外も業績は好調だ。しかし、今後の主力として拠り所にする社会インフラ事業は、人材流出や信用失墜で足元受注は決して芳しくない。中期的に市場縮小が確実視されているHDD(ハードディスクドライブ)など不安事業もまだ抱えている。

東芝の綱川社長は「半導体事業の売却交渉に最善を尽くす」と強調するが...

となれば、メモリ事業売却方針はどこかのタイミングで見直されることがあるかもしれない。幸か不幸か、来年3月末までの売却は現実的に難しい。記者個人としては、果敢な巨額投資を行う必要があるメモリ事業は総合電機の東芝から切り離すべきと考えている。が、収益性が高い(反面、変動性も高いが)メモリ事業を残したほうが東芝にとっていいという見方は根強くある。

メモリ事業を売却せずに債務超過を解消できるかどうかはわからない。一旦、上場廃止を受け入れて再上場を目指すか、金融支援を受けてウルトラCをひねり出すのか。債務超過解消を満たすため、東芝メモリの株式の最低限を売却し、一部出資を残すことはありえそうだ。

実際、記者会見後のアナリスト向け説明会で綱川社長は「(メモリ事業の100%売却というスキームの変化は)ありうると思うが、現段階で決まったことはない」と微妙なニュアンスで答えていた。

これまで綱渡りを続けてきた東芝。綱川社長の頭の中には何か奇策があるのかもしれない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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