働きやすさを追求したら「無断欠勤OK」になる

小さな工場の人を縛らない働き方

それまでの武藤さんは、従業員は「管理」するものだと思っていたそうだ。従業員をガチガチに管理し、代替出勤も許さず、何事にも細かく書類で提出させ、挙句は工場内にビデオカメラを設置して事務所から工場内を監視するほどだったという。また従業員のなかで派閥争いがあって現場の空気が悪くなっても、むしろその争いをうまく競争心をあおることに利用できないかと考えるような、いまとはまるで違うやり方をしてきたという。口うるさい悪役を演じ、嫌われても管理を怠らないことで現場の統率が取れ、生産効率を高めると信じていたのだ。ビジネス書を読んでそれを丸呑みし、「こう改善すれば歩く距離が10歩少なくなって効率が上がる!」などと従業員を叱咤してきた。

それが、大震災ですべて失い、取引先などの援助や励ましでせっかく再起したのにやり方を変えられず、大切な戦力に去られてしまった。あとはもう自分一人でやるしかなくなってしまったのだ。しかし自分は現場がわからない。もう、従業員のひとりひとりに聞くしかない。

こうして初めてじっくりと、働く人々と向き合い、話を聞き、意見を聞いていくうちに武藤さんはどんどん変わっていく。従業員をガチガチに管理していた自分。それは従業員も嫌だっただろうが、憎まれ役なんぞを自認していた自分もまた大きなストレスを抱えて、けっして居心地よく働いていなかったことを素直に認めるところが武藤さんのすごいところである。

良かれと思ってやるのも禁止

ああ間違っていたと気付いた武藤さんが、ずんずん変わっていく過程は読んでいて清々しい。武藤さんが変わり、従業員も変わっていく。管理をやめたら人がやめなくなり、長く勤める熟練従業員が多くなることで商品品質も生産効率も向上、何よりも従業員の意識が変わりさらに働きやすくするためにはどうしたらいいか前向きな提案をしてくれるようになったのだそうだ。この方式を取り入れて、誰も出勤してこなかった日は一日だけ。むしろ全員来てしまう方が一気に作業が増えて困るくらいだと聞けば、案ずるより生むが易し。

本当にそんなことできるの?というはじめの疑問は、読んでいくうちにどんどん溶けていく。この方式はすでに4年続いているそうだ。つねにみんなの意見を聞き、当初のやり方からさらにブラッシュアップさせている。例えば「嫌いな作業はやらなくていい」というルールは「嫌いな作業はやってはいけない」に発展した。やらなくていいどころか、禁止、である。

ある新人のパートさんが入ってきたときのこと。「自分は新人だから」と嫌いな仕事でも頑張ってやってしまった。新人さんは「自分が嫌いな作業はみんなも嫌いだろう」と思い、気を利かせたわけだ。ところが別のパートさんはその作業が好きだったのに新人さんに取られてしまったと、不満を溜め込んでいたというのだ。なんともったいないことか。誰も得をしない。だから、嫌いな作業をやるのは禁止。良かれと思ってやるのも禁止。

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