立ち上げの社内承認を取るために、半ば無理とわかって事業計画を立てたことも大きな痛手となりました。起案した時点ですでに厳しそうだったのですが、「まぁ、数字はやってみなければわからない。あくまで仮置きの数字だから」と諭されて社内会議を通しました。
田中課長は「うちの会社の規模を考えれば10億円くらいの数字はないと、そもそも事業として検討する価値がない」と役員クラスから言われたのに加え、「3年で単独黒字、5年で累積損失一掃」は社内で不文律のようになっていたために立てた目標ですが、現実とは乖離していたようです。
既存事業なら過去の経験で目標売り上げも立てやすいのですが、新規事業では正直見当がつきません。それでもいざ事業化がされれば、仮置きと言っていた数字もしっかり責任数字としてのしかかってくるのが現実です。
本当なら、事業を進めながらその過程でわかってきたことをベースに軌道修正を繰り返し、数値計画も順次見直していければよいのですが、一度社内で決めた数字を修正するのは簡単ではありません。
実は社内の新規事業の競合は、社内の既存事業でもあります。新規事業への投資の原資は、既存事業と食い合いますので、その計画がうまくいかなかったときには誰かに責任を取ってもらう形でないと、原資を取り合った既存事業からの納得が得られません。
そもそも成功確率が低いものを担当させられて自分ばかりがその責任を負うのであれば、企業人としてはリターンの見合わないリスクです。成功すれば社内の評価は上がるでしょうが、失敗したときのリスクの大きさを考えれば誰も社内で自ら手を挙げようとしません。
筆者が育った環境(リクルート社)では、新規事業の担当に任ぜられることは名誉なこととされていましたが、新規事業の担当に指名されると「まずい」「本流から外されたか」と思ってしまう会社も世の中では多いというのもうなずけます。
新規事業が育つ組織であるためには
このようなことを繰り返していては、新規事業は決して会社の中から育ちませんし、新規事業にチャレンジしようという風土も生まれません。本当に新規事業が生まれやすい会社にしていくためには、そのための組織的措置が必要です。
まず役員レベルで責任者を明確にし、責任者となった役員に権限委譲をして推進しやすい体制を作ることが必要です。逐次役員会で合議を進めていては、スピーディな検討ができません。
上級役員には中長期的な視野に立った全社目線でしっかりサポートすることも求められます。既存事業と経営資源を取り合うことにもなりかねない新規事業を上の人が守らなければ、新規事業は育てられません。
売り上げ計画については、そもそも不確かなものであることを許容し、柔軟に評価を変えていく必要があります。新規事業に積極的な会社では、全社予算の中からは切り分けた別予算枠を持って運用しているケースもあります。
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