円安を望む経営者は利口ではない
――そういう経済学者たちが日本経済を動かそうとしている現状には、いかがお考えですか?
それについては非常に危惧しています。リフレ政策が世界の主流派経済学の立場だというのは、まったくそのとおりです。しかし、それはアメリカだからこそ有効な経済政策なのです。
アメリカはドルという基軸通貨を持っているから、どれだけ金融緩和しても最終的に外国にドルを買ってもらえます。特に新興国の多くは輸出で稼いでいますから、少しでも自国通貨高になろうものなら、ドルを買って通貨高を抑え、輸出を維持しようとします。アメリカがリフレ政策をとって延々と「借金経済」を回すことができるのは、基軸通貨国だからなのです。
――それと同じことを日本でやるのは無理があると?
どれだけおカネを刷って金融緩和をしても、それが基軸通貨でないかぎり、その国の財政が危ないとなれば途端にその通貨の買い手はいなくなり、売られてしまうわけです。その典型例が債務危機に苦しむことになった欧州ユーロ圏ですね。
同様に、基軸通貨を持たない日本がリフレ政策を進めても、アメリカのようにインフレと通貨安によって借金を棒引きしてもらうわけにはいかないので、欧州の二の舞になる可能性が極めて高いと思います。
そういう現実を知らないまま、「1ドル=110円が望ましい」なんて発言している経営者もいるようです。そういう人には短期的な自社利益しか見えていないのでしょうね。しかも、「最終的にそのツケが自分のところに回ってくる」というところまでを考える論理的思考力が不足しています。
いつまでも古い理論にしがみつくな!
――現状の経済学が役に立たないのだとすると、経済学を新しくつくり直していく必要があるということでしょうか?
「いつでもどの国でも役に立つようなひとつの学問」として経済学をつくっていくのは難しいのではないかと思います。
本当に役に立つ経済学をつくるためには、実体経済あるいはビジネスの現場の考えをふんだんに取り入れていく必要があります。ビジネスの現場はどんどん変化していきますから、経済学も時代の流れに沿って変化していくのが当然でしょう。