日本が少子高齢化を止める唯一の方法とは? コマツ・坂根正弘相談役インタビュー<前編>

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現に、うちの女性社員のデータを調べてみたら、少子化対策としてその効果は確実に出てきている。30歳以上の女性社員を例にとれば、東京本社の結婚率が50%であるのに対して石川が80%、結婚した女性社員の子どもの数が東京は0.9人であるのに対して石川は1.9人。掛け合わせるとなんと約3.4倍(0.5×0.8=0.4 vs. 0.9×1.9=1.7)も開きが出ている。石川は物価が東京よりもずっと安いし、子育てもしやすいので、当然の結果だといえますね。

雇用と教育は1セット、成功は首長の「強い思い」にかかる

坂根正弘(さかね まさひろ)/広島市生まれ、島根県育ち。1963年小松製作所(現コマツ)入社。2001年社長、2007年会長を経て2013年から現職。今年2月からは政府の「地方大学の振興および若者雇用等に関する有識者会議」の座長をつとめ、5月には東京23区の大学の定員抑制などを求める中間報告をまとめた。「ダントツ経営――コマツが目指す「日本国籍グローバル企業」(日本経済新聞出版社)など著書多数(撮影:今井康一)

中原:私は、「大企業の本社機能の分散」は「地方の教育インフラの充実」と組み合わせてこそ、効果が発揮できると考えています。そうはいっても、地方の教育インフラを充実させるために、すべてを地方の財政で賄うのは無理がある。だから、東大でも阪大でも慶応でも早稲田でもどこでもいいから、とにかく地方にひとつ新しい大学キャンパスや付属の高校を創ってほしいと思っています。

結局のところ、たとえ大企業が地方に移転したとしても、子弟を安心して通わせる学校がなかなかないという実情があります。だから、大企業の経営陣も社員たちも地方への移転を積極的に支持することはない。そのようなわけで、地方に良質な雇用の場は生まれないし、人口減少の加速も一向に止めることができないんです。逆に地方に良質な雇用が生まれれば、若い人々が地方に残って働くという選択肢も広がります。

ですから、地方の自治体は企業と学校をセットで誘致するための努力をしてもらいたいですね。私の自宅の近くにも筑波大学という優秀な大学がありますが、卒業する学生で茨城に就職する学生は皆無に近い。ほとんどが東京の企業に就職してしまう。せっかく優秀な大学が地元にあっても、良質な雇用がなければ効果が大きく減ってしまう典型例なんですね。やはり、大企業と大学の誘致はセットであって初めて、相応の効果を発揮するものだと思います。

坂根:私はたまたま今、山本幸三・地方創生担当大臣の下で「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」の座長をやっていて、先日、その中間報告を大臣に手渡し、自民党本部でも話してきましたが、地方大学振興の話も結局は先に述べてきたコマツの地方回帰の取り組みと本質は一緒です。

おっしゃるとおり、地方大学振興の問題とは、それだけを議論したらダメなのであって、雇用の問題、もっと大きく言えば地方の活性化の進め方と抱き合わせて考えなければならない。教育問題について言えば、大学以前の段階の塾を含めた教育の問題まで関係しています。その大前提として地方の首長が「私たちのこの地域を、自治体、大学、産業界が一緒になって引っ張っていくんだ」という強い思いを持っていないかぎり、地方大学振興なんて絶対にできるわけがありません。要するに、地方の首長のやる気にかかっているんですね。

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