坂根:そこで反対の意見の代表として出てくるのは、「そんなこと言ったって、地方の学生や親はみんな、東京の大学に進学したほうが就職に有利だろうと思っているのだから、そういう大きな意識の流れは変えられないでしょう」といったものです。けれども、それを認めていたら、地方はじりじりと悪い方向に進み続けるだけでしょう。反転できないにしても、まずは食い止めようとする努力はしなければなりません。
中原:確かに、坂根さんがおっしゃる一連の改革を推進するためには、地方の首長のリーダーシップが欠かせないと確信しています。つい最近の話ですが、ある自治体の首長選挙に出る候補者から「何か目玉になる政策はないか」と意見を求められたので、「大企業の本社機能の一部を誘致することと、優秀な大学の新しいキャンパスを誘致することの2つが核になる」と申し上げたところ、「そんなこと、できるわけがない」と切って捨てられました。
最初からできないと決めつけてしまう首長は、これからの少子高齢化が進む社会のなかでは、確実にその自治体を「負け組」にしてしまうだろうと考えています。実際に、長野県や富山県をはじめ、複数の自治体の首長は大企業の本社機能の一部を地元へ移してもらおうと、積極的に働きかけているんですから。できない理由を考えるのではなく、できるようにするには何をなすべきかを考えるほうが、これからの行政のトップには求められる資質であると思っていますね。
コマツはいち早く全国各地で枠を決めて採用試験を実施
坂根:まったくそのとおりで、地方行政のトップが地元の産業を何とか強くしたい、特色を出したい、そのために大学がどういう存在であってほしい、といったビジョンをしっかりと持つことがとても大事ですね。地方行政のリーダーが大学や地元の企業を巻き込み、その地域の特性を「見える化」して知恵を出し合えば、地方に雇用を生み出すのは可能であるし、だんだん良い方向に向かっていくのではないでしょうか。
しかしそれよりも、いちばん手っ取り早いのは、やはりコマツのような大企業が少しでも本社の機能を地方に戻すようにすることでしょう。地方に雇用を生み出すのは、すぐにでもできることもあります。コマツが地方回帰を決めた理由は少子化問題もありましたが、生活コストの安い地方で多く働いていたほうが将来のコスト競争力も維持できるだろうという現実的考えもあってのことです。
この国の仕組みは日本人にとって東京に居たほうが有利なことが多くなっています。企業の人材採用活動ひとつ取っても、東京に集中している現状があります。指摘された筑波大学の例も確かに東京で就職していますが、実際に配属されている場所は地方も多いのです。コマツは大学卒の採用を東京一括でまとめてすることをやめて、主要工場がある石川や大阪などでも枠を決めて採用試験をすることも2011年から始めました。実際に地方枠で入社した社員に話を聞くと、石川や大阪の大学を出ても地元で採用試験が受けられることが大きな心支えになり地方の大学に行ったという人もいるのです。
地方に良質な雇用がないかぎり、地元の大学に行ってみようかということにはならないのは当然です。そういったことを一つひとつ変えていかねばなりません。さもなければ、地方はみんな公務員や教員になるのがいちばんいい就職口だということになりかねません。それでは、地方の大学も変わりようがないし、少子化を止めることもできません。そして一方で大事なことは、東京は地方からヒト・モノ・カネを集めるのではなく、国際都市として発展する道を選択すべきです。
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