日本が少子高齢化を止める唯一の方法とは? コマツ・坂根正弘相談役インタビュー<前編>

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建機最大手でグローバル企業のコマツは、坂根正弘相談役が社長だった時代から石川・小松市に本社機能の一部移転を開始。今や、石川での30歳以上の女性社員の結婚比率は8割、結婚女性の子どもの数は平均1.9人に上る。東京よりも断然暮らしやすいからだ(撮影:今井康一)
今後の日本について懸念すべき最大の問題は、誰もが認めるように「少子高齢化」だ。筆者は2011年、建機の最大手コマツが本社機能を地方へ分散しようとしていることを知ったとき、少子高齢化の緩和や地方衰退を止めるためには、同社の取り組みを多くの大企業が見習う必要があると直感した。だが今現在、本社機能の一部を地方に移すという動きは、トヨタ自動車やアクサ生命など、少数の大企業でしか行われていない。
実際、本社機能の地方への分散は、具体的にどれほどの効果をもたらすことができるのか、筆者自身もずっと気になっていた。そうした矢先、偶然にもコマツの坂根正弘・相談役とお会いし、今回インタビューをする機会を得た。日本の将来を考えるうえでも、ぜひ括目(かつもく)していただきたい。

本社を小松に一部移転、30歳以上女性社員の結婚80%

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中原:坂根さんが社長時代から取り組んできた、本社機能の地方への分散について、きっかけとこれまでの経緯からお聞かせください。

坂根:そもそもの出発点は、2001年に私がコマツの社長に就任し、創業以来初の赤字に陥る中で構造改革に着手したときに、製造業としてもう一度、国内に回帰しようと決断したことでした。

会社のコスト分析を徹底的に行ったところ、当時の業績が悪化したのは、いろいろな事業に手を出しすぎて固定費が膨らみ競争力を失っていたのであって、事業の選択と集中を徹底すれば本業のモノづくりでは競争力を失ったわけではないということがわかりました。同時に、国内工場の優秀さや生産性の高さが数字で見て取ることができたのです。1985年のプラザ合意以降、日本では円高が進み、産業界全体としても国内生産への自信が揺らぎ、コマツも海外シフトを進めていましたが、私はその分析結果に自信を持ち、国内回帰に大きく舵を切りました。

では国内のどこに回帰するのかというと、創業地の北陸、石川県でした。どういう部門が石川にあればよいのかという議論から始まり、基本的にできるかぎり工場に近いところに多くの組織がいたほうがいいとの考えで、これだけITが進歩しているのだから部品調達本部は本社ではなく、協力企業も近くに集まる工場にこそあるべきとの結論になり、2002年にまずは部品調達本部を石川の小松市に移しました。

2011年には本社の教育研修組織と各工場の研修施設を統合して、小松市に総合研修センターを開設。これまで、本社などから150人以上の社員が小松に移りました。また生産工場についてはわれわれの商品は物流コストが高いので港湾工場がいいと考え、石川県の金沢と茨城のひたちなかに新設しました。余談ですが、金沢港はこのときの港湾投資で大型船の就航が可能になり、昨年はクルージング大型船の就航が54船と、日本海側で最大となっています。

私が地元回帰を進めた本質的な動機は、この国の深刻な少子化問題にあります。私たちは1950年代に石川から東京に本社を移し、工場も輸出に便利な関東、関西に移しましたが、多くの地方企業がそういう経緯をたどったことによって、東京への過度な一極集中とそれに伴う少子化を加速させてきた一面があります。代表的な地方出身の企業であるコマツが率先して地方へ回帰すれば、いずれは他の企業も回帰の道をたどってくれるのではないかというのが、私の強い思いですね。

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