中原:私は当時の坂根さんの取り組みを知って、地方の衰退を止めると同時に、この国の少子化を止めるには、これしか解決策はないと思いました。大企業の本社機能の分散は、地方の教育インフラの充実とセットで考えれば、きっとうまくいくはずだと直感できたんですね。
しかし、どうしてこんな抜本的な対策があるにもかかわらず、コマツの取り組みがずっとクローズアップされなかったのか、非常に不思議に思っているところです。地方創生とこんなにマッチングする対策は、ほかにはないのではないでしょうか。
坂根:私たちがこれだけ頑張っていても、石川の人口が減っていないかというと、そういうことではありません。たとえば、同じ石川でもエリアによっては人口の減少率に格差があり、能登あたりはどんどん人口が減っています。それはそれで問題が絞られてきたから前向きにとらえて取り組んでいかなければならないんですね。何もせずに放置していたら、もっとひどいことになるのだから、一つひとつできることからやっていくしかないわけです。
われわれは社内でやれることはやってきたので、数年前からは地元の農林業の活性化の支援もしています。また、前述しました教育研修センターでは社員研修だけではなく、コマツのOB・OGの人たちがボランティアで地元の子どもたちに学校では学べないような理科教室を提供しています。このことで高齢者に活力も出ています。
やはり、われわれのような大企業だけでなく、みんなで本質は何かということを見ながら、そこに向かってできることを一歩でもやろうという気概を持たないかぎり、絶対に少子化の問題は解決に向かわないでしょう。ただし、企業もそうなんですが、みんなが一斉に動き出すなんてことはありえませんから、まずは小さくてもよいから成功事例をつくる。そのために、あそこの自治体は本気で取り組んで自分たちでできることはすでに始めているから、そこを手助けしようとかいうことになるのです。
経団連の「温度」は5年前と変わっていない
坂根:私は経団連副会長を務めていたときに、コマツの少子化対策と女性社員の子どもの数について話をしたのですが、私からしたら他の経団連企業の方から「坂根さん、うちもちょっと社内で検討してみますよ」と言ってくださるかと思ったら、いまだに誰一人として言ってこられないんですよ。これだけ中央集権化の弊害が出てきて大変なことになっているのに、なかなか大きな動きに変えていくのは大変ですが、ネバー・ギブ・アップですね。それと、この国は何でも大企業中心に考える傾向がありますが、各地方にある中堅企業がより活性化する方策のほうが効果的かもしれませんね。
中原:先日お会いしたときに、坂根さんが「うちの後に続いてくれるところがない」とぼやいていたのが印象に残っていますが、私自身も少子高齢化や地方の疲弊の行き着く先を想像すると、日本の将来を非常に憂えているところです。仮に20~30代の女性の出生率が2.0にハネ上がったとしても、その年代の女性の人口が少ないので、50年後まで日本の少子高齢化は止まらないのがわかっているからです。地方自治体で破綻するようなところも、きっとたくさん出てくるでしょう。
ただし、たとえ50年後まで少子高齢化が止まらないとしても、私たちはおのおのができることからやっていかなければならないと思っています。坂根さんがおっしゃるとおり、何もしないで放っておいたら、将来の状況はさらに悲惨になってしまうからです。そういった意味では、私がこの問題に対して今できるのは、コマツの取り組みをもっと世の中に知ってもらい、微力ながらも少子化対策の流れに協力していくということだろうと思っています。
後編に続く。後編は7月28日に配信の予定です。
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