親から虐待された子どもたちが受ける精神的な影響については、いろいろ指摘されています。「猜疑心が強く、人間関係がうまく築けないから孤立しがち」「知的発達にも障害が及びやすい」「不安や恐怖心にさいなまれ、居場所を求めて非行化」など(もちろん虐待にもかかわらず立派に育っている方もたくさんおられますが)、「そんな人間に誰がした」と言いたくなる気の毒な例は、私の周囲にもあります。
幼児期のたった数年(成長にはとても大切な時期)に負った傷に、一生支配される人は、少なくありません。
「しつけ」と称する暴力
私の知人の憂子さん(仮名)の長女は、両親や祖母・その他の親戚の愛情を一身に受けて育ちました。ところがその子が2歳の頃、憂子さんの夫がギャンブルを覚え、家庭を顧みなくなりました。お決まりのコースで、つるべ落としのように借金地獄に陥り、憂子さんが泣いても脅しても、夫は幽霊のようになって、どこへ行けば借金ができるかで頭はいっぱいです。
憂子さんも生活費としてあちこちに借金をし、八方ふさがりになりました。そのはけ口が、唯一自分より弱い長女に向かい、「しつけ」と称する暴力が容赦なく続きました。あどけなかった長女の顔はみるみる怯え顔になり、笑顔を作っても泣いているようにしか見えなくなりました。
その後憂子さんは、6歳になった長女を置いて、ゼロ歳児の次女だけ連れて姿を消しました。数年後には憂子さんの居所がわかり、長女もそこへ行きました。それから20年後、その長女はその間没交渉だった父親の親戚や母親の友人宅行脚を、記憶をたどりながら始めて、私のところにも来ました。
「母親が病気」「同棲している男に全財産を持ち逃げされた」「給料をもらって外に出た途端、スリにやられた」など、行く先々で理由が違い、いずれにも「10万円貸してほしい」と言います。
身体的にも未発達の30キログラム台で目は死んでいて、姿はホームレス寸前でした。驚いた私は憂子さんの電話番号を聞き出し、長女の目の前で電話しました。
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