野村克也「部下は上司の内心を自然と見抜く」 真の「リーダー」には何が求められるのか

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やはり、しゃしゃり出るリーダーはあまりよろしくないだろう。リーダーは本番に向けてプレーヤーを育てて備えをする。

それができていれば、本番ではほとんど何もせずに、安心して選手に任せる……と言いたいところだが、私のような根っからの貧乏性ではなかなかそうもいかない。ネガティブな考えが頭から離れない。ただ、試合が始まればできることは限られるから、準備に力を入れるのだ。

普段、準備を何もせずに本番だけしゃしゃり出てきて文句を言うようなリーダーは信用できない。リーダーならば、本番までの準備のプロセス管理を重視するよう心がけたほうがいいだろう。

私はヤクルトで9年間監督を務めて、4回リーグ優勝をしている。就任3年目に初優勝。そして次の年も優勝して連覇。日本シリーズも制覇し「日本一」になることができた。

ノムさんが今も反省する「油断」

さて、ここまでは良かったのだが、それからがわれながら実に情けない。「4位→優勝(日本一)→4位→優勝(日本一)→4位」。そう、「勝ち」と「負け」の繰り返しだ。優勝した次の年は決まって4位になるという体たらくだった。当時は、そんなこと微塵も思っていなかったが、私に少なからず「油断」があったことが原因だと今も反省している。

私は本当に弱い人間で、優勝した時点で責任を果たせたと思ってついホッとしてしまう。安心して全身の力が抜けてしまう。もちろん口には出さないし、態度にも出さないようにしていたつもりだ。だが、知らず知らずのうちに選手には私の安堵感が伝わってしまったのだろう。

リーダーの考えていること、リーダーの心の内は、言葉にしなくても選手、部下たちに伝わってしまうものだ。だから、優勝してホッとした私の「心の内」が選手に伝わって、翌年は4位に甘んじてしまう。そんなチームづくりしかできなかったのは、ひとえに私の力量不足だと思っている。

組織とは恐ろしいもので、リーダーの考えていることはすべて伝わっている。だから、リーダーたる者一時も気が抜けないし、抜いてはいけない。口に出して「さあ、引き締めて行くぞ!」と言っても、内心で「優勝して良かった」と思っていれば威勢のいい言葉も空虚なものになる。

このリーダーたる者の本質は、どの業界でも変わらない。自分の上司の振る舞いを思い浮かべてもらえるといいだろう。きっと、上司の一挙手一投足を見て、機嫌の良しあしなどを推し量っているのではないか。まさにそれと同じことである。

ひとつ大きなプロジェクトを成功させた。当然上司や同僚と一緒に喜ぶだろうが、後には次のプロジェクトも控えているだろう。そこで上司がいつまでも、何とも言えない安堵感に包まれていたら、次もうまくいくと思えるだろうか。

もちろん、喜ぶな、安堵するな、と言っているわけではない。そうした感情を引きずりすぎてはいけないということだ。

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