ボルボ「90シリーズ」に体現したデザイン哲学 前輪とドアとの距離感が威厳を演出する

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そういうことを意識していると、おのずとライバルとは差異化したボルボらしさが生まれるのだという。また、高い審美観を持つひとの期待に応えるためにボルボのデザイナーたちは、おもしろいトライをしているそうだ。

タイヤとボディの位置関係

クルマの美を決めるものはなにか。いろいろな要素があるが、デザイナーたちが言う最も重要なものはプロポーションだそうだ。例えば、前後のタイヤとボディの位置関係。ボディ自体も車輪からどれだけ前後に飛び出しているかとか、キャビンがどこに位置するか等々、考えなくてはならない点は多い。

「新型90シリーズで意識したのは、前輪とドアとの距離感です。ある程度離れて見ると、50年代の英国高級車のような威厳が感じられるようになります。無意識のうちにひとはそれを意識します。それを考え抜きました」

「同時にインテリアもごちゃごちゃとスイッチが並んでいるのは、美しくなく、格式高い感じがしません。それにいまは新しい機能がどんどん増えています。それに対応した操作マナーを考える必要がありました」

そこで氏は、画期的な解決策を採用した。ボルボが「センサス」と呼ぶ液晶のタッチモニターの開発である。

「スイッチを必要としてきた操作のほとんどを、モニター上で行えるようにしました。エアコンからドライブモードなど車両の設定、もちろんインフォテインメントにまつわるあれこれすべてです」

それによって、新しい機能は欲しいけれど5年後ぐらい先のモデルチェンジまで待つ、という悲劇的な状況が改善されました」とディズリー氏。

「物理的なスイッチにこだわらないので、オーナーはディーラーでセンサスのアップグレードさえすればいいのです」

物理的な仕上げの品質も新型90シリーズの見どころになっている。たとえばウッドパネルはあえてナチュラルなざらざら感を残した表面処理を施している。

「レザーシートで使うのは蚊やアブに刺されたことのない牛革で、エルメスと同じ供給元を使っています」

クロームのパーツや宝石のようなカットを施した透明樹脂パーツなども目につく。いいものを知っているひとが無意識のうちに評価する仕上げに注目したそうだ。

「欧州では多いシチュエーションなのですが、オーナーが家人を夜の空港に迎えにいったときを想定して車内の照明をデザインしました。温かみのあるやわらかなライティングで、家から離れていても早くも家に帰ったような感覚を持ってもらいます」

自分たちの価値をよくわかっていることが成功につながる。ボルボはそのよき例である。

ジョナサン・ディズリー|Jonathan Disley
ボルボカーグループ デザイン部門バイスプレジデント
2001年にボルボカーズに入社。インテリアとエクステリア部門で、コンセプトカーや量産車を担当。2013年のフランクフルト・モーターショーではコンセプトクーペで「カー・オブ・ザ・ショー」を受賞したほか、2014年の北米国際自動車ショー(デトロイト・モーターショー)で「XCコンセプトクーペ」で「ベスト・コンセプトカー」などを受賞。また同年ジュネーブ・モーターショーで「コンセプトエステート」が「カー・オブ・ザ・ショー・ジュネーブ」に輝いた。2014年から15年にかけては、新世代プラットフォーム(SPA)を使用したインテリアデザインマネージャー。現在はボルボカーグループ上海デザインスタジオ所長も務める。

(文:小川フミオ)

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