ボルボ「90シリーズ」に体現したデザイン哲学 前輪とドアとの距離感が威厳を演出する
1970年生まれのディズリー氏は、目をくりくりさせて口角を上げながら話してくれた。ディズリー氏の業績のなかには、新型90シリーズの布石となる3台のコンセプトモデルも含まれる。
その第1段として2013年に発表された「コンセプトクーペ」は、セダンのS90へと発展。続く「コンセプトエステート(14年)」はステーションワゴンのV90に。そして「コンセプトXCクーペ」(同14年)はV90クロスカントリーへと繋がった。
「どれも2ドアのクーペですが、コンセプトカーと量産車のイメージはキチンと重なるはずです」と、ディズリー氏が説明するように、シャープな造型美で話題を呼んだ3台のコンセプトモデルと今回の90シリーズはみごとな関連性を感じさせる。
「意識したのは、スカンディナビアのライフスタイルに根ざしたデザインです。私たちは3本の柱を作りました」と続ける。
1つめは「スカンディナビアン・オーソリティ」。新型90シリーズは、ハンス・ウェグナーの家具などと通じるものといい、ビジネスマンのためのS90をテーマとし、より強く意識したそうだ。
2つめは「スカンジナビアン・クリエイティビティ」。V90をストゥッテルハイムが手がけるモダンで作りのよいアウターコートとイメージ的に結びつけていた。
3つめは「スカンディナビアン・アクティビティ」。スウェーデンにはウィンタースポーツ用ギアで有名なPOCの製品がある。V90 クロスカントリーがこのテーマで開発されたそうだ。
ライバルとの差別化
新型90シリーズに先立つ3台のコンセプトモデルは海外で高く評価された。
たとえばコンセプトクーペは2013年のフランクフルト自動車ショーで「カーオブザショー」を受賞、といったぐあいである。デザインで意識しているのは、クリーンな造型であり、シンプルな要素で構成することであり、クラフツマンシップを感じさせることだそう。
「強いライバルとの差別化も重要な課題です。私たちの場合はドイツ車です。スタイリングでは、世界的に知られているクーペのP1800(1960年発表)からフロントグリルの考えかたを取り込むなど、ボルボのキャラクターを際立たせようと考えました」
もっとも特徴的なのはトール(北欧神話の雷神)のハンマーとボルボが呼ぶ、ヘッドランプの意匠だ。横になったT字が中央に入り、上下には細部まで丁寧に造型されたLEDランプが収まる。
「目立つのも大事ですが、やりすぎはよくありません。誇張はなく、すべてが調和している。これが内外装ともにボルボのデザインポリシーなのです」
乗ってもらいたい想定オーナーがいる、とディズリー氏は言葉を続ける。
「少なくともスウェーデンでは、教育レベルも社会的地位もそれなりに高く、美的センスが高いひとが乗ってくれるのでは、と期待しています。他人のフォロワーでなく自分であることに誇りを持っているひととも言えます」