これまでも、小池知事は、東京都の説明資料がとにかくわかりにくい、と細かく注文をつけ、会見のスライドから、報告書に至るまで、とっつきにくい行政資料を見やすく変えるように指示を出してきた。人は理では動かない。情で動くのである(過去記事「小池都知事、『安全だが安心ではない』の欺瞞」を参照)。こうした洞察に基づいた、シンプルで、感覚的・直感的に受け止めてもらえるメッセージの「作り方」「見せ方」「わかりやすさ」への執念が、都民ファーストの会のすべてのコミュニケーションの根底にある。
3つ目の戦法は候補者の選び方にある。そこに重視したのが、「スペック」と「ストーリー」だ。東大卒、京大卒などの高学歴者、弁護士、税理士、医師などステータスの高い人、若くて、見た目のいい人、など高スペック者が多く登用された。こうした高スペックは、肩書、学歴などの一つの特徴から無意識に相手の評価を高めてしまう「ハロー(後光)効果」を生み、経験のなさを補う。
そもそも、選挙においては、ぱっと見の印象で70%の確率で当選者を予測できるという研究もある。若く美しい人々は「ふるい議会を新しく」というキーメッセージにも符合して、清新さをアピールするのに一役買った。
「市井」の目線を打ち出した
また、候補者の「ストーリー」も際立っていた。夫を事故で亡くし、2人の息子を女手一つで育て上げた人、ダウン症の子どもを持つ母親、お腹に赤ちゃんを宿した女性。「政治家になりたくてなるのではない。都民のために役立ちたいから」と「市井」の目線を打ち出し、「政治家になりたくてなり、それを漫然と続ける既存の政治家」との対比を際立たせた。
それぞれの「スペック」や「ストーリー」の内、最も特徴的で、「売り」になるもの、これをブランディング用語では「ユニーク・セリング・プロポジション(独自の売り提案)」「バリュー・プロポジション(提供する価値)」と言うが、選挙公示やソーシャルメディアでの小池知事の各候補者への推薦文を読むと、各候補者の持つ価値の内、どこを有権者にアピールするのかという、まさにその「プロポジション」がなんであるのかを的確に見分けていることがわかる。短い文の中で、候補者の最も特徴ある点、差別化ポイントを言い当てている。
以上のように、今回の選挙戦は、徹底的に作り込まれたコミュ戦略に基づいて、周到に展開されてきた。「小池チルドレン」の資質は未知数であり、小池知事の「一元政治」に対する不安感もぬぐえない。しかし、少なくとも、負けた政党は、「中身のない『劇場型』選挙に負けた」などと言い訳をしてはならない。「伝えたつもり」の戦略なき選挙コミュニケーションをする時代は終わったということだ。「伝える努力」をしたつもりでも、「伝わる努力」はまったくしてこなかったのだから。
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