演説の極意について、彼女自身、遊説中、こう語っている。「私も(演説は)下手でした。元キャスターですけれど、街頭演説は違うんですよ。前を行き交う人々に話しかけるのは難しいんです。皆さんと共感できるような話し方、中身。これによって、皆さんの足を止める、聞いていただける、共感していただける」
小池知事が元キャスターだから話がうまいと結論付ける人もいるが、そういうことではない。なぜなら、キャスターやアナウンサーは、本来、滑舌よく、わかりやすく「説明する」のが本分で、人の心を動かすように「説得する」のが仕事ではないからだ。単にわかりやすく話すレベルから、相手の共感を呼び、心を揺さぶるレベルに至るまでには少なからぬ修業とスキルを要する。
「オレ様」系のスピーチはアウト
政治家には「自慢話」をがなり立てるか、ひたすらお願いするタイプのスピーチが多い。「〇〇の整備を実現しました」「リオ五輪に視察に行ってきました。私は東京五輪も現職として参加したいのです!」今都議選でも、こんなことを平気で訴える自民党候補者がいたが、そもそも、「実績アピール」の「オレ様」系のスピーチは、人の心に刺さりにくいものだ。
欧米では、多くの政治家にスピーチライターが付き、徹底的に聴衆の心をとらえる言葉を考え、トレーニングをしっかりと受けて振る舞い方やジェスチャー、話し方まで、嫌というほど練習するものだが、日本においては一般的ではない。いわゆる「地盤」「看板」「かばん」が重視される地縁・血縁・組織型の選挙においては、人を動かすコミュニケーション力など大して必要とされなかったのだろう。しかし、それは、都市型・現代型の選挙においては、勝敗を分ける、まさに生命線なのだ。
2つ目のコミュニケーション戦法は、「言葉」へのこだわりだ。小池知事のコミュニケーションの最大の強みは「言葉に対する独特の嗅覚」といえるだろう。「オッサン政治」「昭和枯れすすき(のような議会)」「肥満都市」「ワイズスペンディング(賢い支出)」など、耳目を引く言葉選びに長けているが、人の心に残りやすい言葉に徹底的にこだわっている節がある。
「小池知事は言葉を選ぶセンスがある。ピンとこないと『つまんない』とはじかれる」と、かつて彼女と一緒に仕事をした広告の関係者は言う。「9日間は腰が低いが、4年間はふんぞり返る、そんな議員選んでない?」「議員になったら、勉強しない。4年間落第ないからパーティとヤジだけうまくなる」「ドンはやめても小さなドンは出てくる。どんどん」「過去25年間で成立した議員提案の条例はたった1本。議会って何してるの?」。
都民ファーストのホームページを見るとこんな、川柳のようなウィットに富んだキャッチコピーが、かわいらしいイラストとともに表示される。きっと、小池知事自ら、どこかのコピーライターのお尻をたたいて、何度もダメ出しをしたに違いない。言葉だけではない。デザインにもこだわっている。都民ファーストのパンフレット、ホームページ、チラシなど、余白の取り方、ビジュアルの見せ方は明らかに退屈な他党のものとは違う。すべてに小池知事の厳しいチェックが入っていることがうかがえる。
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