高収入の医師たちがあえて「起業」を選ぶ理由 閉鎖的な医療界と一般社会の溝を埋める

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2014年に発足したメディカルノートは多くの患者に支持されるだけでなく、医師たちからの信頼も厚い。今後は起業で得た人脈やノウハウを活用して、医療事業継承ビジネスや医療相談サービスのアプリ開発にも注力していくという。

メディアの知識不足に危機感

冒頭の産婦人科医、宋美玄氏も社会と医療界の溝を感じていた医師の一人だ。産婦人科医の医療事故を安易に医療ミスとして報じるメディアや、それを疑いなく信じる人々の「医療情報への妄信」に疑問を抱き、妊娠・出産の正しい知識の普及のために、本の出版やテレビ出演を行ってきた。

そこで気づいたのは、多くのメディアが思い込みで医療コンテンツを作っているという実態だった。たとえば「妊活」の企画では、大半が「妊活には冷えの撃退が有効」といった内容になる。メディア業界の人々は文系出身が多く、医療の基礎を理解しないまま情報を流すケースが多い実情を目の当たりにしてきた。

そして2016年秋に起きたDeNAの医療キュレーションサイト「WELQ(ウェルク)」問題。「肩こりは幽霊が原因のことも?」といった根拠のない記事を多数掲載した結果、炎上し、DeNAは事態の収拾に追われた。「メディアの医療知識の乏しさが、医師や医療に対する歪んだイメージをつくっている。読み手だけではなく、書き手のメディアリテラシーを強化する必要がある」。そう語る宋氏は2017年、ウィメンズヘルスリテラシー協会を立ち上げた。今後、編集者や記者、ライターに対してのイベントや講習を開催する計画だ。

「医師は患者の病を治すだけでいいのか」。医師と患者とのコミュニケーションの希薄さを問題視するのは、「ミニ臓器」の研究で著名な医師、武部貴則氏。診療・研究の傍ら、生活の中で健康につながる行動を、広告によって促す事業「広告医学」(AD-MED)を推進している。

「不摂生がかっこいいと思っている人を健康にするには、魅力的なデザインを使い、健康につながる行動に導くしかない。新聞やテレビなどで報道されると最大瞬間風速は大きいが、効果は長続きしない。(人の心に刺さる)広告の手法が使えると気づいた」(武部氏)

武部氏が電通のクリエーターとともに仕掛けたのが、神奈川県・金沢八景駅にある長い階段状のトリックアート。このアートを見るためには、歩いて最上段まで上る必要がある。結果として運動不足解消につながる仕組みだ。「健康のプロである医師がリーダーシップをとって発信することで、広告は利益を生むだけでなく、命を救い、生活を豊かにする手段となる」(武部氏)。

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