高収入の医師たちがあえて「起業」を選ぶ理由 閉鎖的な医療界と一般社会の溝を埋める
当時、医師による起業の前例はほとんどなかった。それでも悩む医師たちをつなげようと、30歳で医師向けコミュニティサイト「メドピア」を開設。運営会社メドピアは2014年に東証マザーズに上場を果たし、今では10万人の医師が登録する大型サイトへと成長した。手術動画や薬剤情報などのコンテンツを無料で公開し、高い評判を得ている。
「カテーテル専門医が一生で救える患者は10万人。これもすごいことだが、官民を巻き込んで日本全体にインパクトを残せたら、1億人を救える」(石見氏)。次は「医師と患者をつなげる」ことを目標に、遠隔診療などに商機を探っている。
患者に正しい情報を伝えたい
医師の実名による医療情報サイトを運営するメディカルノートも、その情報の信憑性の高さから、医療界で幅広い信頼を得ている。木畑宏一社長は臨床医を2年間勤めた後、マッキンゼーへ転職。その後、MBAを取得し、投資ファンドへの勤務などを経て起業した。
「昔でいう『家庭の医学』のような確かな情報を、インターネットの検索から探し出すのは難しい」(木畑氏)。ネット上に信憑性が乏しい医療情報が氾濫する昨今、求められるのはエビデンスに基づいた信頼に足る情報だ。それを担保するため、900人の医師に記事の監修を依頼している。
医療情報は専門用語が多く、一般読者にはとっつきにくい内容の記事も多いだけに、こだわっているのはわかりやすさだ。記事を書くのは医師ではなく、トレーニングを受けた専門のライター。彼らに医療系のバックグラウンドはないが、医師に丁寧にインタビューをし、記事に医師が目を通すことで、正確性とわかりやすさを両立させている。
木畑氏が起業した背景には、医師が患者に伝えるべき情報を十分に伝えられていないという問題意識があった。医学部時代から「先生」と呼ばれる独特な環境。医師になると多忙な業務に追われ、患者とじっくり向き合う余裕もない。「余裕のない医師が、患者に正しい情報を伝えることは難しい」(木畑氏)。そんな思いで始めた患者向け情報発信のNPO活動が、現在のメディカルノートにつながっている。
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