「脱サラしてパン屋」になった人たちの事情 人気商売だが苦労も少なくない
今は従業員を含め3人で回しているが、「朝7時に来て帰りは夜8時。休憩なし、立ちっぱなし動きっぱなしで飯も食えない。『これちょっと違うんじゃない』と、もう1人募集中です」と佐藤氏は話す。
さまざまな苦労はありつつも、「食べ物屋なので、『おいしい』と言ってくれる人がいることがわかる」とやり甲斐を感じている。
ケーキ職人を襲った不幸の数々
「朝採り大葉としらすのパン」160円、「自家製野菜のキーマカレーパン」200円、「もりもり野菜グラタン」300円、「自家製野菜ピザ」200円、食パン1斤270円――。季節でかわるパンや定番のパンなど、常時約30種類を売る「Boulangerie Miez(ブーランジェリー・ミーツ)」は、岡山県北東部の勝央町、JR勝間田駅前の商店街にある。勝央町は、野菜・果物の栽培が盛んな農業地帯だ。
「地元の野菜を食べていただきたくて、こういう商品にしています。両親の畑の野菜や近隣の野菜です。白桃を載せたパンなど地元産の果物も使います」と言うのは、2014年9月に同店を開いた名部美智加氏(40)。前職は食品の商品開発に携わる会社員だった。
名部氏は、元はケーキ職人だった。大阪の辻製菓専門学校を卒業し、大阪のケーキ店で働くうちに腰を痛めたことから、20代半ばで転職。製粉会社を経て全国展開するケーキ店チェーンの会社で商品開発に携わるも、2010年8月に会社が倒産。地元・勝央町に戻ってケーキ店をやるつもりで準備を進めていた2011年3月、東日本大震災が発生。物流が止まり先も見えないことから周囲に開業を反対され、地元の食品メーカーに就職した。
ところが、その会社がブラックだった。連日深夜1時、2時までの残業が続き、ついに仕事中に倒れる。翌日から固形物を食べられなくなって、1カ月半で14キロやせる事態になり、入社から1年半で退職。「よいものを食べる大切さを痛感した」ことが、後に野菜・果物をたくさん使ったパンの店につながる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら