「働かないおじさん」だって、心底悩んでいる 中高年が企業に囚われる悲劇

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成果だけってのはあんまり褒められない(撮影:沼田 学)

為末:スポーツ業界では、やっぱり「②>③」ですね。努力が何よりも大切。成果は出る、出ないもの両方あるんだろうけど、成果だけってのはあんまり褒められないですね。よく語られるのは「あいつみてみろ、あいつは結果が出ているけど、すぐに落ちるんだ」という言い方です。さらに追い打ちをかけるのが「あいつは2時間しか練習しないのにこれだけ打てているんだから4時間すると2倍打てるはずだ」という発想です。「時間をかければ、頑張ればよくなる」という発想です。

中原:興味深いですね。「あいつは2時間しか練習しないのにこれだけ打てているんだから4時間すると2倍打てるはずだ」という仮定法的主張が受け入れられるのなら、無限にトレーニングしなくてはならなくなりますよね。だって、やればやるほど、いいんだから。

為末:おっしゃるとおりです。

過剰な努力信仰が足かせになるときが来る

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中原:そして、スポーツ業界で起こっている、この「努力」の部分を「残業」とか「長時間労働」にすると、日本の企業で起こっていることが見えるんじゃないかと思うんです。「残業をしながら成果を出す」ことがよいことで、「残業しなくても成果を出す」のは、眉をひそめられるということです。これに拍車をかけるのが「職場の同調圧力」の強さですね。しかし、これも行き詰まっているような気がします。こうした考えが、ある意味、女性の社会進出を妨げていると思います。子育て中の女性は、残業はなかなかできませんから。また、これから、この国を襲うのは「親の介護」の問題です。

子育てと違って、ある日、突然、親の介護が人々に降りかかります。そんななか、介護で一時期長い残業ができない、短時間しか働けないということが、「みんなの問題」として経験されるようになるでしょう。過剰な努力信仰は、そのとき、完全に足かせになってくるでしょう。今後、転換点を迎えると思います。育児や介護……これからより多くの人々が「訳ありの状態で仕事をすること」になっていくのです。

中原 淳 立教大学経営学部教授

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なかはら じゅん / Jun Nakahara

1975年北海道生まれ。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・成長・コミュニケーションについて研究。立教大学経営学部教授。同大学ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)主査、リーダーシップ研究所副所長。著書に、『経営学習論』(東京大学出版会)、『会社の中はジレンマだらけ』『育児は仕事の役に立つ』(ともに共著、光文社新書)など多数。

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為末 大 アスリート

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ためすえ だい / Dai Tamesue

1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2021年12月現在)。現在は執筆活動、会社経営を行う。Deportare Partners代表。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。YouTube為末大学(Tamesue Academy)を運営。国連ユニタール親善大使。主な著作に『Unlearn(アンラーン)人生100年時代の新しい「学び」』(共著、日経BP)、『Winning Alone』(プレジデント社)などがある。

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