英総選挙もやはり牛耳る「静かな勢力」の正体 そこに欧州が抱える本質的な問題がある

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「離脱」陣営は、残留希望者を52%対48%でかろうじて打ち破った。しかし、その僅差は若者と高齢者にある隔たりの別の形である。世論調査のYouGovによると、18歳から24歳の年齢層で離脱を支持したのは29%だったのに対し、65歳以上で離脱を支持したのは64%に上った。50歳未満の投票者はEU残留を支持する一方、50歳から64歳では65歳以上と同様、離脱を支持した。

総選挙は国民投票のやり直しではない。多数の政党に所属する3303人の候補者が全650議席を争うため、英国のEU離脱を問う選挙は政党の方針にまたがる1つの問題をめぐって行われるのである。

若年層と高齢者にある隔たり

また、EU離脱の決定については、すでに残留に投票した多くの人でさえ、渋々ながらも受け入れている状態にある。これは、欧州自由民主改革党支持派にとっては障害となっている。

なぜなら、彼らはEU離脱に関する2度目の国民投票を行うという公約を掲げて残留派の若い有権者の支持を得ることによって、自らの政治的繁栄を取り戻したいと考えているからだ。しかし、同党は今回においても、わずかな議席しか獲得できない見通しだ。

スコットランドと北アイルランド以外で保守党とマッチレースを展開しているのは自由民主改革党ではなく労働党である。労働党は大学の授業料の無償化や、育児に対する公費負担の大幅な拡大を公約に掲げることで、露骨な若い有権者の囲い込みを行っている(前回の訪英時にジェレミー・コービンに「感銘を受けた」と語っている)。米国のバーニー・サンダースに非常に近い政治家である労働党党首のジェレミー・コービンが選挙遊説で若い群衆からの称賛の声を集めたことから、この公約は奏功しているものと思われる。

選挙では世代の問題が顕著になっているが、これは2008年の金融危機以来、若年層と高齢者の保有する資産の差を如実に反映している。若い労働者は金融危機以来、苦難の道を歩んでいる。仕事は豊富にあるが、20代の実質賃金は下がっている。

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