台湾がアジア初の「同性婚合法化」に動く理由 司法の最高機関が「禁止は違憲」と判断
同性婚の問題は、台湾にとって世界に向けた情報戦という意味がある。常に比較の対象になる中国では、同性婚の合法化は議論すらされない。中国は、統一工作として台湾に対し「同じ中華民族に属する」「両岸は同じ家族」といった共同体論で接近を呼びかけることが、習近平体制になって一層増えている。
そんな中国の宣伝攻勢に抵抗している蔡英文政権が、「台湾と中国はここまで違う」ということを世界に向かって示すチャンスととらえた可能性を、周到な広報の背後に見てとるのは、筆者だけではないだろう。
総統府がさっそく「大法官解釈はすべての行政機関を拘束するものだ」と、その正当性をあえて再確認するようなコメントを出したのも、立法院におけるこう着状態を一気に解決するという決意の表れだろう。
保守的な家族観から法改正に否定的な国民党だけではなく、民進党の議員ですら、同性婚の合法化を求める若い世代の支持者と、消極的な地元の選挙民の板挟みにあっており、蔡英文総統の意欲は知っていても、先頭を切っては動きにくいところがあった。
しかし大法官解釈という錦の御旗があれば、「大勢はすでに固まった」と、責任を押し付ける相手ができるわけだ。大法官解釈に対して、少なくない民進党の幹部があえて沈黙を守っているのは、内心ではホッとしながら、自分で火中の栗を拾いたくない、という思いがあるようだ。
「中国」よりも「世界」と繋がりたい若者たち
もう1つ興味深いのは、同性婚を支持する若者たちは「生まれながらの独立派」と呼ばれる「天然独」世代が中心であり、彼らには、世界の普遍的な価値観を共有し、中国ではなく、世界と繋がっていることを証明したいという気持ちが強い。そのなかで、欧米では認める国が増えている同性婚を、台湾がアジアで率先して認めることで、台湾がすでに中国のくびきから抜け出していることの証明にしたい、という意識があるように思える。
大法官解釈は、民法が同性婚を制限していることは、婚姻の自由と平等を定めた憲法に違反していると宣告したうえで、2年以内に関連法律の修正を求めており、もし立法措置が2年以内に行われない場合、同性婚希望者は戸籍事務所で結婚登記ができる、という救済措置まで付け加えた。
違憲の理由として、中華民国憲法第7条の「中華民国の人民は男女の区別なく、宗教、種族、階級、党派の区別なく、法律上等しく平等である(筆者訳)」という規定から、結婚の自由は「結婚するかどうか」「だれと結婚するか」も含めた基本的な人権であり、憲法の保障を受けるべきものだとされた。
また同性婚は、異性婚に影響を及ぼさず、異性婚がこれまで作り上げた社会秩序を変更させるものでもなく、同性婚の権利は保障されるべきで、民法にその規定がないのは立法における重大な瑕疵である、としている。そのうえ「生育能力があること」を民法で結婚の条件としていない以上、生育能力のないことを理由に同性婚を否定することはできない、としている。
この大法官解釈は、15人の大法官のうち12人が賛成し、2人が反対、1人が態度を留保した。15人のうち8人は馬英九前総統に任命され、7人は蔡英文総統に任命されているが、結果は違憲派の圧勝だった。