固定資産税が重すぎる人の解消されない悩み 市場価値が下がっても減らない硬直的な制度
朝日新聞経済部が2015年8月に始めた「にっぽんの負担」という連載でこの点を指摘して話題になったことなどから、政府は2018年度からタワマンについては高層階と低層階の固定資産評価に差をつけることを決めた。対象となるのは高さ60メートルを超えるマンションで、40階建ての場合は最上階の評価が5%上がり、1階の評価は5%下がる。
この評価方法は「時価方式」を一部取り入れたものと見ることができる。実は、総務省の固定資産評価基準は、建物の評価で事情によって時価を考慮するよう求めている。新たな方式は、実際のタワマンの高層階と低層階の格差から見ると中途半端なものだが、本格的に時価評価をするとなると、タワマンだけでは済まなくなり、これまで以上に複雑化する。
固定資産税問題に詳しい物部康雄弁護士は「固定資産税について定めた地方税法上の大原則は、土地も建物も時価による評価ですが、総務省が評価基準を定めていることで、ダブルスタンダードになっている。その乖離が無視できなくなってきたことが問題の背景にあります」と指摘する。
「土地神話」の崩壊で固定資産税の重さが際立つように
かつて日本の不動産は、右肩上がりの地価を前提とした「土地神話」に支えられていた。その頃は、実際の時価より低めの評価をしておけば具体的な算出方法が問題になることは少なかった。ところが、バブル崩壊と人口減少で、不動産価格は地方を中心に大きく下がり、固定資産税の重さが際立ってきたのだ。
物部弁護士は「建物に対する課税は、体積を基準にするほうが合理的ではないでしょうか。建物は社会の財産である空間を独り占めしているので、その大きさに応じて、地価を反映させた負担を求めるのです。地価が高いところに立つ大きな建物は高額になる仕組みです。機械的に計算できるので、現在、全国で数兆円かかるともいわれる建物にかかる徴税費用は格段に安くなります」と提案する。
建物を評価して徴税する仕事は主に地方公務員が担っているが、膨大な手間がかかる。固定資産評価に関する検討会を昨年4月に発足させた東京都によると、大規模なビルの評価には2年近くかかることがあり、課税ミスも多発している。
KPMG税理士法人(東京都港区)は建築事務所と共同で、ビルへの課税の検証をするサービスを展開している。通常よりも課税額が多いビルや、間違いが多い自治体にあるビルを重点的に調べるという。
建物にかかる税は、建築技術の進歩に伴って、建築材の材質や工法などで細かく変わる。間違いを指摘すると税金が下がったり戻ったりするため、ビルのオーナーにとっては調査の手数料を払う以上のメリットを得られることが多い。同法人の竹宮裕二パートナーは「頻繁に人事異動がある自治体の職員ではわからないことも多いため、間違いが発生しやすい」と話している。
東京都の検討会は今年4月、固定資産評価の一部に、取得時の実際の価格を採用するなどの見直しを求める報告書をまとめて、国に提言した。固定資産税は明らかに制度疲労を起こしている。小手先の修正にとどまらず、地方の住宅政策や産業への影響も考えた抜本的な見直しが必要だ。
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